2023年の名目GDPで日本がドイツに抜かれ世界4位になりました。
日本政府は、名目GDPで抜かれているが、円安やドイツのインフレによる影響が大きいので、実質GDPでは抜かれていないという見方を示しています。
苦しい言い訳にも思えますが、正しい一面もあります。
名目GDPではドル換算する際に、日本の円安でGDPが目減りすることや、ドイツのインフレによってドイツの財の評価は高くなるからです。
しかし、このような計算上の理由で納得するよりも、それぞれの国が選んだ政策の違いに注目してみたいと思います。
ドイツは、ご存知のようにベルリンの壁が崩壊し、東ドイツと統合されたため、この時、財政は大赤字となりました。
財政再建のため、徒弟制的で閉鎖的だった労働市場を改善すべく、シュレーダー政権の時に、フォルクスワーゲン社の労務担当役員だったペーター・ハルツ氏を委員長とする委員会を立ち上げ、法律を整備し、労働改革を行いました。
いわゆるハルツ改革です。
これが労働者の質の向上や職と労働者のマッチングに繋がり、労働市場が柔軟化されました。
現在日本で、AI導入に伴い、リスキリングなどと言われているものを行ったのと同様の効果が得られたのだと思います。
次に、シュレーダー政権を受け継いだメルケル政権下でも、改革路線は引き継がれましたが、メルケル政権の功績の一つは外国人の受け入れに寛容だったことです。
ドイツ人労働者だけでなく、外国人労働者が増えたのです。
これにより、ドイツ人労働者には、職を奪われるのではないかという危機感が生まれ、一部でネオナチ(ネオ・ナチズム)の活動が活発になるなど、ドイツ人と外国人の間に軋轢が生じたものの、労働者同士の競争が激しくなり、結果的に労働者の質の向上につながったと思います。
このような経緯により、ドイツは経済だけなら、ヨーロッパの皇帝といってもよいぐらいの立ち位置になりました。
一方日本は外国人労働者の受け入れに消極的で、団塊世代以降の大量定年退職が始まり、労働力不足になってから、現在外国人労働者を増やそうとしています。
バブル経済崩壊以降、国際競争が激しくなる中、日本が選んだ改善策は生産設備の海外移転と人件費抑制のための非正規雇用の増加でした。
人件費を抑えた労働力を求めた結果、高付加価値の財やサービスを生み出せなくなっただけでなく、労働生産性も低下したと考えられます。
結果、日本は実質GDPでは負けていないといいますが、労働生産性ではドイツが日本の約1.7倍の生産性を有するという結果になっています。
ただ、ドイツが万全ということではなく、ハルツ改革は非正規雇用の増加や格差の拡大といった現在の日本と同様の問題も生み出しています。
ドイツ人の中には、労働生産性が高い企業の代表であるはずの自動車メーカーが製造したドイツ車は買わないというドイツ人もいるほどです。
しかし、労働生産性の問題だけでなく、不正が明らかになった日本の自動車業界を考えると、不正とわかっていながら不正に手を染めなければならない日本の労働者の現状を真っ先に変えなければならないのかもしれません。
モラルと経済力は、背反するものではなく、表裏の問題、ここで例えるなら車の両輪と言えるものなのだと思います。