映画「宮本から君へ」という映画作品が文化庁所管の日本芸術文化振興会から助成金の交付を受けられるという内定通知があったにもかかわらず、出演者の1人が麻薬取締法違反容疑で逮捕されたために助成金の交付が受けられなくなっていました。
これを受けて映画のプロデューサーが、不交付の決定の取り消しを求めて東京地方裁判所に訴えを提起していました。
この裁判の判決が先日、東京地方裁判所でありました。
第一審としては原告側の勝訴となりました。
判決の主文は「助成金を交付しない旨の決定は取り消す」というものになります。
これが裁判所から芸術作品へ出された判決となります。
当初助成金の交付が内定していましたが、振興会側は出演者が薬物使用で有罪となると「公益性」の観点から交付しない旨の決定を通知してきたのです。
もともと助成金の交付要項に「公益性」という要件はありませんでしたが、映画の制作会社側がこれを指摘すると後から付け加えるということもしていたようです。
振興会側は助成金の交付を認めてしまうと国が薬物乱用に寛容であると誤解されかねないなどの主張をしていました。
裁判長は薬物を使用した出演者の出演時間は多くはなく、役柄としても作品の顔として認められるものではないとして助成金を交付しなかったことは公益性の濫用であると認定しました。
まず助成金を交付するかどうかは振興会が決定する権限を有しています。
そうすると助成金を受ける側にとっては助成金を受けることは権利ではなさそうですが、今回は一度交付が内定していたことが、勝訴の要因であったように思います。
裁判所は本件のような事情の下で公益性を理由に本件のように助成金の交付をとりやめることは公益性の濫用にあたるとしています。
この意味は本来公益性を理由に助成金を交付するかしないかを決めることはできるが、今回のような事情の下で公益性を理由に交付しないことは、公益性を基準にする本来の目的にかなっていないということです。
注意が必要なのは、このことから直ちに振興会が後から要項に公益性を追加したことが認められたということにはならないということです。
出演者が犯罪を犯すと作品が公開中止となったりしますが、助成金の交付についての法的判断としては作品と出演者は一応別物という趣旨の判決がなされたことに大きな意味があるように思います。
ただし、今回の裁判だけでは一度交付が内定していたことが、どこまで影響したのかは明らかになりません。
つまり交付の内定すらせず選考から漏れた場合は、どのような理由から選ばれなかったかは明らかにならないでしょうし、内定を受けた場合も、内定自体が何らかの期待権のようなものとして保護されるのか、今回のような事情の下では内定が決定と同様だと捉えられたのかは明らかではないからです。
この辺りは他の裁判での裁判例の集積を待つより他ありません。