最近、福島の原発事故で国家賠償請求を棄却した裁判についての記事を書きました。
いろいろ書いているうちに、東京電力の株主が、旧経営陣に対して提起した株主代表訴訟の判決が、東京地方裁判所でありました。
損害賠償請求が認められ、東京地方裁判所は旧経営陣に対して13兆3210億円の支払いを命じました。
書き間違いではありません。
もう一度書きます。
13兆3210億円です。
東京電力の旧経営陣の責任を認めた判決であるため、報道でも画期的な判決であるというムードが漂っています。
しかし、この判決も素直に受け入れ難いのです。
これまでの福島の原発事故の裁判の判決を確認し、状況をまとめてみたいと思います。
旧経営陣に対する刑事裁判→第一審 無罪(控訴審が係属中)
周辺住民に対する損害賠償→認容
周辺住民に対する国家賠償→棄却
東京電力に対する株主代表訴訟(今回)→認容
日本の裁判制度は同一事件に対する複数の訴訟で、判決相互間のバランスをとるような制度にはなっていないので、やむを得ない部分はあるのですが、現在の状況を確認しておきます。
まず刑事裁判の話は一旦置き、民事裁判に着目すると、周辺住民に対する損害賠償請求は認容されています。
この損害賠償のためのお金は、原子力損害賠償廃炉等支援機構が一旦肩代わりしていて、一部が不足しているため、税金が投入されそうだということを以前このブログの記事で書きました。
損害賠償のために、東京電力など11社の負担する負担金は財務内容の悪化などを理由に減っていて、税金が投入されそうな状態です。
一方、国家賠償は棄却されています。
そこへ来て株主代表訴訟で13兆3210億円の認容判決です。
株主の利益も正当な利益なので重要なのですが、周辺住民への損害賠償は、企業の財務内容の悪化を理由に負担が減っていて、税金が投入されそうなのに、株主へは13兆3210億円の損害賠償が認められているという結果を見ると、判決を素直に受け入れづらいのです。
株主代表訴訟の場合、責任追及されているのは会社ではなく旧経営陣です。
周辺住民に対する損害賠償では会社が賠償を行います。
責任の帰属主体が異なるため、株主代表訴訟による損害賠償請求を認容しても、東京電力の資力が悪化するわけではありません。
しかし株主に甘く、周辺住民に冷たいという印象が拭えないのです。
更に、東京電力の株主には、大企業も名を連ねています。
原子力発電は、電力を使う企業のために、安価な電力を提供するためのものでもあります。
電力を消費する大企業が、電力の恩恵に預かりながら、株主であれば、株主代表訴訟の結果についてもその恩恵に預かるということも納得し難いし、国が進めているようにも思える原子力発電について、東京電力に事業を肩代わりさせているという側面はないのかという疑問もわきます。
もし仮に、原子力発電は国も行っていると評価できる事情があるのなら、事故が起これば原子力損害賠償法によって電力会社に責任を押し付けて、国は責任を追わない仕組みにしているとしか思えないのです。
今回の判決で受け入れ易い点があるとすれば、事が起こったら、これだけ巨額の損害賠償が認められるのであれば、他の電力会社も含め、原子力発電は行わなくなるのではないかということぐらいです。