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不当利得に関する規定は不当ではない

原状回復義務について記事の2回目です。

前回、不当利得(民法第703条、民法第704条)の原状回復義務の法的な性質について類型論が有力に主張されていることを書きました。

民法第703条と民法第704条は、受益者が利得について法律上の原因が無いことに善意(民法第703条)であるか悪意(民法第704条)であるかによって使い分けられますが、規定を分ければ、それで終わりということではなく、過失の場合をどちらに含めるかという問題が出てきます。

法的な性質について類型論にたったとしても、当事者の公平を考え、妥当な結論を導く姿勢は必要になります。

民法703条と民法第704条に関する議論は、民法第121条の2にもあてはまることが多いです。

民法第121条の2は、取り消しを含めて無効となる場合について原状回復を定めた規定ですので、当事者の意思により任意に給付が行われた給付利得について「戻りの関係」を定めた規定ということになります。

法的性質について、類型論に立っているということができることになりますが、給付利得は法律行為に基づく場合のほか、給付する義務があると誤信した場合のような法律行為に基づかない場合を含みます。

そのため民法第121条の2は給付利得の一部の場合についての定めということになり、同条の適用範囲から外れた給付利得に関しては民法第703条、民法第704条の適用の余地があるわけです。

そうすると民法第703条と民法704条は不当利得に基づく原状回復についての一般的な規定で、民法第121条の2は法律行為が無効となる場合の特別規定ということになります。

給付利得に関する定めであるため、法的な性質としては類型論に立っていると考えるのが素直かと思います。

民法第703条と民法第704条が受益者の善意か悪意かによって使い分けられていることを書きましたが、契約の解除の場合の原状回復を定める民法第545条では、解除する者が善意であるか悪意であるかによって使い分ける規定は存在しません。

これは契約の場合、解除原因が元々存在していても不思議ではなく、解除するまで表面化していないだけで、解除原因について悪意であることは何ら責められるような理由ではないからです。

民法第121条の2は双務契約のように当事者双方が原状回復義務を負う場合を想定していますので、それを反映するように対価関係、つまり有償か無償かで場合を分けています。

善意、悪意と関連して、返還の範囲について、有償行為については善意、悪意を問わず原則全額返還、無償行為については、善意であることを要件に現存利益に軽減することを認めています。

これは善意の者(この場合、取り消しや無効原因があることを知らない者)は、利益を得たときに、後に返還することを予期していないからです。

給付利得について適用される規定であると書きましたが、詐欺や強迫に基づく取消の場合、瑕疵ある意思表示によるものではあっても給付利得にはあたります。

意思表示の過程に違法な関わり方があるという点では侵害利得の要素もあることになります。

有償契約であったとしても詐欺や強迫の場合に全額返還という原則を貫くのは妥当性を欠くように思います。

類型論はオーダーメイドのようなものではなく、パターンメイドのようなものだと前回書いたのも、このような場合があるからです。

このようなケースについて直接規定していないのは立法の不備というよりも、このようなケースも含め詳細は解釈に委ねるというのが立法経緯のようです。

類型論に立ったとしても解釈により妥当な結論を導く姿勢が必要になるということに変わりありません。

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