単なる不動産ではなく、住居として使用する不動産には民法の賃貸借に関する規定だけではなく、借地借家法という特別法が適用されます。
建物については、賃料が不相当な場合には当事者が家賃の増減額を請求できることになっています。
民間の賃貸住宅であるなら、家賃の値上げがあった場合、その額が不相当であるなら減額を請求できることになります。
請求することができるというだけで、必ず減額が認められるという意味ではありません。
一方住宅供給公社という組織があります。
戦後の住宅不足の解消にも役立った住宅公団などを母体とする組織で、UR(都市整備機構)と共に公的な組織ですが、公営住宅と異なり一定以上の収入がある人が入居できる住宅を中心に取り扱っています。
この住宅供給公社には住宅供給公社法という法律が適用され、住宅供給公社法施行規則では、同公社の賃貸住宅は、近隣の家賃相場や経済状況などを考慮して、同公社が家賃を決められることになっています。
2004年から2018年にかけて神奈川県住宅供給公社が、家賃を段階的に引き上げたことに対して、住民側が家賃の減額を求めて訴えを提起していました。
そこでは住宅供給公社の賃貸物件についても借地借家法の適用があるかどうかが争点になっていました。
法律には、特別法が一般法に優先して適用されるという原則があります。
民法という一般法に対する特別法同士の適用関係が問題となったのです。
第一審の横浜地方裁判所及び控訴審の東京高等裁判所では、住宅供給公社法の規定が借地借家法に優先して適用されるとして住民側の請求を棄却していました。
この裁判が上告され、最高裁判所での判決がありました。
結論をいうと、最高裁判所は住宅供給公社の賃貸物件についても借地借家法の適用を認め、控訴審判決を破棄し、訴えを東京高等裁判所に差し戻しました。
小法廷ですが、5人の裁判官の全員の一致による判断です。
理由として、住宅供給公社法の規定は、公共的性格を持つ住宅供給公社が、賃貸業務を行う際の規律を補完的に定めたものであることを指摘し、借地借家法の規定とは別に同公社に家賃の決定権限を与えたものと解釈することはできないとしています。
もっとも、この判決は、借地借家法の適用を認めたもので、実際の家賃を減額すべきかどうかは、差し戻し審の東京高等裁判所で、改めて審理されることになります。
ただ、公的公社の賃貸物件に借地借家法の適用を認めた初めての判決で、全国の住宅供給公社の賃貸事業に影響があると考えられるうえ、UR(都市再生機構)の賃貸事業にも影響があると考えられます。
そのため、公的公社の賃貸事業全体に影響を与える判決と言えそうです。