学校法人森友学園への国有地売却に伴う疑惑が追及される中、財務省近畿財務局の元職員、赤木俊夫さんが書類の改ざんをさせられ、それを苦に自殺するという事件がありました。
国側の責任を追求するため、赤木さんの奥さんが、検察に提出された行政文書の開示を求めましたが、国が不開示決定をしていました。
これを不服として、赤木さんの奥さんが、文書の不開示決定の取り消しを求めた裁判の控訴審判決が大阪高等裁判所でありました。
第一審の大阪地方裁判所は、文書を開示すれば、捜査内容が推知され、将来の同種の事件の捜査にも支障が及ぶ恐れがあるとして、文書の存否を明らかにしないまま、不開示とした国の決定を適法としていました。
大阪高等裁判所は、この判断を覆し、文書の不開示決定を取り消しました。
文書の存否も明らかにしないというのは、ひどい対応だと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、これは情報公開法第8条で例外的に認められている措置です。
一般に、グローマー拒否(※1)と呼ばれます。
例えば前科に対する情報公開請求があった場合、情報はあるが、個人情報なので開示できないと答えた場合、内容はわからないが、少なくとも犯罪歴があるという事実が分かってしまいます。
逆に無いと答えた場合も、犯罪歴は無いという事実が分かってしまうわけです。
このように、情報の存否を回答することが、情報を開示したのと同様になってしまうような他の事実が明らかになることにつながる場合に、情報の存否を明らかにしないまま開示を拒否することが認められているのです。
今回も、文書の存否を回答することが、どのような捜査が行われたか推知され、他の事件の捜査に支障が及ぶ可能性があるとして、大阪地方裁判所は、不開示を適法と判断していたのです。
しかし、どのような文書が存在し、どのような捜査が行われるかは、事件によって異なりますし、捜査内容が推知され、他の同種の事件の捜査に支障が及ぶ恐れというのも、抽象的な危険と評価せざるを得ないのではないかと思います。
また、捜査内容が全て不開示なのであれば、捜査の公正さはどのようにチェックされるのかという疑問も出てくるうえ、推知される捜査内容が不開示情報といえるのかも微妙です。
事件の重大性や証拠の重要性を考えれば、今回の大阪高等裁判所の不開示決定の取り消し判決は、まっとうな判断ではないかと思います。
※1辞書などで調べて、「グローマー」の意味が分からないという方のために一応補足しておきます。
グローマーというのは、「グローマー・エクスプローラー」というサルベージ船の名前から来ています。
1974年、アメリカ(U.S.A)のCIA(アメリカ合衆国中央情報局)で、太平洋に沈没したソ連(当時:ソビエト社会主義共和国連邦)の原子力潜水艦を引き上げる計画が進められていました。
ニューヨーク・タイムズの記者が、これをかぎつけ記事にしようとして情報公開請求しましたが、ソ連との国際問題になることを恐れたアメリカ政府が事実関係の存否も回答せず、応答を拒否したのです。
それで、グローマー拒否と呼ばれるようになりました。
ちなみに、この記者は、政府から圧力をかけられ、この時点では記事にしないという取引に応じたようですが、当時国際事件となる企業犯罪の取材を行っていたことも取引に応じた理由のようです。
その事件が、日本で起こったロッキード事件です。
最終的に、潜水艦の事件は、ロサンゼルス・タイムズが1975年に記事にして世に知られることになり、ニューヨーク・タイムズがそれまでの経緯を明らかにしたため、ここに書けているのです。