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被害者に寄り添う判決

石綿を使った工場で働いていた人の健康被害を巡り、損害賠償の請求権が除斥期間にかかっていないかどうかが争点となる訴訟の控訴審判決が、福岡高等裁判所でありました。

除斥期間とは、消滅時効と異なり、被害者の主観を問題とせずに、客観的な期間の経過により権利行使ができなくなるものです。

法は、「権利の上に眠る者」は保護しないという建前があるため、このような制度があります。

消滅時効であれば、不法行為の行為時から加害者側は遅滞に陥る反面、被害者側は、損害および加害者を知った時から消滅時効の期間が開始されます。

これに対し、除斥期間は、一律期間の経過で権利行使できなくなります。

原告は、既に亡くなっており、訴え提起時から遡ると、被害発症時が基準ならなら除斥期間の20年が経過していることになり、行政が医師の診断により管理区分を決め、被害を認めた時を基準とするなら、19年11か月というぎりぎりの期間で損害賠償請求権を行使したことになるという限界事例に近いものでした。

ちなみに訴訟は、当初の原告の遺族が引き継いでいます。

長崎塵肺訴訟では、除斥期間の開始時期については、被害発症時が基準として示されています。

泉南アスベスト訴訟では、除斥期間は、管理区分決定時とされ、本件の被害者についても和解手続きでは、行政が被害を認めた日が基準とされてきました。

これを、国がいつの間にか、被害発症時に早めたことになります。

法解釈としては、被害発症時という解釈も十分成り立つ気がします。

ただ、泉南アスベスト訴訟では、和解の基準として行政が被害を認めた日を基準としていることを考えると、同様の事案には、判例の射程が及ぶという解釈も成り立ちます。

和解の基準については、事案ごとに基準が異なっても不思議ではありませんが、加害者側である被告が国であることを考えると、平等原則が働くと考えられます。

異なる取り扱いが認められる特殊な事情がなければ、同様の基準で臨むべきではないかと思います。

これをとらえて、福岡高等裁判所は、国側の主張が、最高裁判例の理解を誤っている旨指摘していますが、長崎塵肺訴訟で示された被害発症時という基準が、被害者保護のため、遅めの基準を取り行政が被害を認めた日に具体化されると考えることもできます。

国側の解釈が判例の誤読かどうかはともかく、被害者の救済が手薄になっていたこれまでの経緯を考えれば、妥当な結論には落ち着いているのではないかと思います。

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