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代理制度のコウモリくん

随分回を重ねましたが、代理も今日で最後になります。

代理については本来の代理が有効になる場合の規定について書きました。

代理権が無い場合の無権代理についても書きました。

今日はそのどちらとも言いにくい代理権の濫用について書きます。

表見代理の場合、無権代理であることが前提でした。

代理権の濫用では有権代理であることが前提となります。

効果の面からは有権代理寄りで、代理人がおかしなことをしているという点では無権代理寄りなのです。

例によって関係なさそうな意思表示の規定から話を始めます。

民法第93条心裡留保についてです。

このブログの改正法の記事は錯誤(民法第95条)から始めています。

その記事の中で錯誤は意思表示と表意者の意思が一致しない場合であり、心裡留保と異なって、その不一致を表意者が知らない場合だと書きました。

言い方を換えると意思表示と表意者の不一致について表示者が知っている場合が心裡留保ということになります。

今回の話と何の関係があるのかを説明します。

代理権の濫用とは、代理権はあるが、代理人が自分や第三者の利益を図る目的で代理行為を行う場合をいいます。

本来の代理

代理の場合、法律行為の効果が帰属する本人と実際に意思表示をする代理人が別人なわけです。

1人で行ったと仮定すると

以上をプロセスを仮に1人の人間が行ったと考えてみると、代理で本人の意思と代理人の意思表示が異なる場合、心裡留保と同様の法律関係になるわけです。

心裡留保の場合

本人(買うつもりはない)

本人の意思表示(買います)

本人は買う意思がないことを自分で知っている。(心裡留保)

原則有効となるが、相手方が心裡留保であることについて悪意又は過失がある場合は例外的に無効となる。

これが心裡留保です。

代理権濫用の場合

本人(買うつもりない)

代理人の意思表示((自分の利益のために)買います)(代理権濫用)

(悪意の代わりに何らかの事情があれば心裡留保に近づく)

旧法下で判例は、代理権の濫用では濫用されていることを本人は知らないことが通常ですが、代理権を濫用するような代理人に代理権を与えているのと、代理の法律行為の効果は本人に帰属するため、本心でないことを知っている場合と同様だと評価ができるため、心裡留保類似の関係を認め、民法第93条の但し書の類推適用によって本人を保護する余地を認めることで解決していました。

要は頭(意思)と口(場合によっては手(表示手段))が同一人物か別々の人かの違いと見ていたわけです。

そのうえで、心裡留保だと相手方の主観的な態様によって妥当な結論に導けると考えたのです。

しかし心理留保の効果は例外が無効になるものです。

例外の要件に該当すると濫用者自身も保護される結果となります。

代理権を濫用された本人が責任を免れるのはまだしも、同時に濫用した代理人まで責任を免れるというのは不合理です。

代理権の濫用はよくあることですし、本人が責任を免れる場合でも濫用者の責任は追及できるように、代理権の濫用についての規定が新たに設けられました。

新法では

それが民法第107条です。

そこでは、代理権が濫用された場合、濫用であることを相手方が知り(悪意)また知ることができたとき(過失がある)場合は無権代理とみなされることが規定されています。

心裡留保が例外的に無効になるのと同じ要件で、その要件を満たす場合と満たさない場合で原則例外を使い分けることで本人の責任や濫用者の責任を追及しうる規定が新設されました。

心裡留保の例外と同様の要件を満たさない場合、有権代理ということになり原則有効

心裡留保の例外と同様の要件を満たす場合、無権代理とみなされ原則無効、ただし無権代理なのでこの場合も無権代理人の責任は追及可能

判例同様の法律構成をそのまま条文に取り込まず、心裡留保と同様要件で無権代理として規定することで、異なる内容と心裡留保構成の場合とほぼ同じような落とし所に着地しています。

ただし、無権代理であると主張するための悪意、有過失は本人が主張しますので、相手方の悪意や有過失を主張した本人が、追認するということは考えにくいので本来の無権代理ほどは解決の選択肢は多くないと言えそうです。

そのため原則の修正は図っていますが例外にあたるケースはほとんどなさそうです。

更に、民法第117条第2項第1号の「知っていたとき」や民法第117条第2項第2号の「過失」の中身は「代理権を有しないこと」ですから、代理権濫用の場合は有権代理であることが前提であることや、濫用についても本人は知らないことが通常ですから、無権代理人の責任は常に追及できるのに近くなります。

無権代理という制度は代理権濫用の効果としては、かなり無権代理人の責任追及のための制度のように変容することになります。

旧法をご存じの方は、代理権濫用での民法第93条但し書類推適用という法律構成は、民法107条の規定により、立法的に解決されたと認識を改めましょう。

更に代理権濫用が無効となるケースで、更に転得者が登場した場合、旧法下では94条第2項の類推適用により第三者が保護を試みていました。

今回の改正で民法第93条が適用される場合について転得者が登場するケースについては、民法第93条第2項を設け立法的に第三者の保護を図っています。

以前の判例理論であれば、これにより転得者も類推適用で保護される可能性があったのですが、民法第107条で無権代理となったため、新たに転得者の保護をどう図るかということが問題になります。

民法第107条には第三者の保護規定が無いからです。

これについては学者の先生方の考え方も様々で、判例が民法第93条但し書の類推適用を行ったのと同じ理由で本人の帰責性を認め、表見代理の適用を示唆するものもあるようです。

相手方に民法第107条を適用するのと同じ考え方で第三者についても民法107条の要件によって解決するという考え方もあるようです。

転得者の保護ついては今後の裁判例の集積に期待したいと思います。

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