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危険負担に対する従来の理解は危険

債権の目的物が特定されてから履行されるまでに関する規定や、履行できなくなってしまった場合(履行不能)に関する規定も改正されています。

従来履行不能には契約成立前に不能である原始的不能と契約成立後に不能となる後発的不能がありました。

原始的不能については無効となり、後発的な不能について不能となった原因が債務者の責任であれば債務不履行の問題、債務者にも債権者にも責任がない場合は危険負担の問題とされていました。

まず民法第412条の2第2項が、契約の成立のときに不能であった場合も、民法第415条(債務不履行)の損害賠償の請求を妨げないと規定しました。

これにより、原始的に不能な内容であっても契約の目的とすることができることや、原始的に不能な場合にも債務不履行の問題となりうることが条文上明記されました。

次に、危険負担についてですが、危険負担とは双務契約において、一方債務が不能となった場合に、もう一方の債務が存続するか消滅するかという問題として定義されていました。

売買の例で場合で言えば、債権の目的物を中心に見て、目的物が滅失してしまった場合、目的物の引き渡し債務は履行不能になりますので消滅します。

これに対して、代金債務(目的物の債権者が負う反対債務)が存続する場合を債権者主義、代金債務が消滅する場合を債務者主義といいました。

従来は、債権の目的物で分けて、特定物については債権者主義、種類物(不特定物)については債務者主義が適用され、種類物が特定した場合は、特定が生じた後は債権者主義が適用されると理解されていました。

目的物に特定が生じるかどうかは「債務者が目的物の給付に必要な行為をした」かどうかで決まります。(民法第401条第2項)

給付に必要な行為にあたるかは、債務の履行地で目的物について必要な弁済の提供をしたかどうかによります。

債務の履行地については、特約がなければ、特定物については取立債務(債権発生時に目的物があった住所)、種類物については持参債務(債権者の現時の住所)となります。

弁済の提供については、あらかじめ債権者が受領拒否の意思を明確に表示している場合を除き、取立債務の場合は口頭の提供、持参債務の場合は現実の提供が必要とされます。

特定物については口頭の提供があり、債権者が取り立てる(取りに行く)までは、債権者の支配下に入っているとは言えない状態なのに、債権者主義が適用され反対債務を履行しなければならなくなり、債権者主義の適用範囲が広くなりすぎるとして、債権者主義を制限的に解釈する試みがなされていました。

危険の移転時期についても目的物に特定が生じたかどうかを基準に、事案によって解釈でズラされていたことになります。

まず、危険の移転時期が特定が生じたときではなく、より債権者の支配下に入ったと言いやすい時期である目的物の「引き渡し」のときとされました。(民法第567条第1項)

従来の債権者主義の適用範囲を制限しようという趣旨が条文に取り込まれたことになります。

ところが、改正法では危険負担について債権者主義の適用範囲を制限するどころか、留保付きの債務者主義といって良い内容に統一しました。(民法第536条第1項)

「留保付き」と書いたのは、債務者主義の内容が、反対債務が存続するか消滅するかの問題ではなく、債権者(一方債務消滅の場合の反対債務の債務者)に、自らの給付の履行拒絶権を認めるという内容だからです。

この場合、債権者が履行を拒絶すれば、債務が消滅したのと同じですから債務者主義ということになり、履行すれば、反対債務が存続したのと同じですから債権者主義ということになります。

義務がないのに任意に債務の履行を選択することはあまりないと思うので、この記事では留保付きの債務者主義と表現しました。

先の売買の例で言えば、従来の考え方では代金債務も消滅するかどうかの問題であったのに対し、改正法では、債権者(目的物の引き渡し債権を有する者:買い主)に代金の支払いについて履行拒絶を認めるという内容に変更されたのです。

民法第536条第2項は、債権者に帰責事由がある場合に、この履行拒絶権が制限されるという内容になっていますが、従来の理解でいえば、危険負担は、一方債務が不能となった場合であって、かつ、双方に帰責性がない場合の問題なので、債権者に帰責性がある場合は、そもそも危険負担の問題ではないことになり、民法第536条第2項は、債権者主義を定めたものと見るべきではないと思います。

そのため危険負担は特定物であっても、種類物であっても、従来とは内容の異なる留保付きの債務者主義に統一されたと考えて良いと思います。

債務者主義の内容を、反対債務も消滅するとせずに、なぜ債権者の履行拒絶権による選択という形で定めたかと言えば、契約の解除(民法第542条第1項第1号)が債務者の帰責事由と関係なく認められていることと関連します。

一方債務が履行不能となった場合、債務不履行による解除でなくても、債務者に帰責事由がない場合であっても契約の解除が認められるようになっています。(民法第542条第1項第1号)

解除の場合には、解除の意思表示が必要とされます。

にも関わらず危険負担が適用される場合について、債務者主義によって反対債務が自動的に消滅するというのは、この部分についての規定がバッティングしてしまうのです。

そのため、反対債務が自動的に消滅することにはせずに、債権者に履行拒絶の選択権を与えるという内容に改正されたのです。

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