前回書いたように、債務不履行で旧法で不完全履行にあたるのが、改正法での債務者が「債務の本旨に従った履行をしないとき」です。
単に債務不履行の一場合についての名前が変わっただけではありません。
旧法では特定物の引き渡しについて、現状で引き渡せばそれ以上の責任を追わないという、いわゆる特定物ドグマの問題がありました。
そのため、特定物の引渡しが債務の内容となる場合、債務不履行とはならないため、買い主を救済する制度として売り主が担保責任を負うのだと考える立場がありました。
これに対し、特定物についても債務不履行は生じうることを前提に、その内容を定めたのが売主の担保責任の規定だという立場もありました。
要するに、特定物ついて現状で引き渡せば責任を負わないという規定があったために、債務不履行と売り主の担保責任という制度の関係について、どのように理解するかという問題が生じていたのです。
今回の改正では、特定物か不特定物かに関わらず、目的物の種類、品質、数量について契約内容に適合しないときは、履行の追完が請求できるとしています。(民法第562条第1項)
旧法のように「瑕疵」という言葉を用いないため、瑕疵が誰の責任に基づくかということも問題にしなくて済みます。
更に改正された現行の債務不履行(民法第415条)の規定では、債務不履行という制度が、損害賠償責任を追及するための制度という性格を強めているということを以前書きましたが、改正後の契約不適合責任の制度は、債務不履行との整合性も取れるようになっています。
つまり、契約上の損害賠償責任を追及するなら債務不履行制度を利用し、債務の履行の追完を請求するなら、契約不適合責任に基づき、追完を請求できるように改正されたのです。
条文上も契約不適合責任を追及しても、損害賠償の請求や解除権の行使が妨げられないことが規定されています。(民法第564条)
これにより、特定物ドグマからは解放されたことになります。