最近、犯罪が行われたという報道があっても、その後、不起訴処分になったという報道がなされることがあります。

不起訴処分には、起訴できるだけの証拠がなく事実上無罪といえる場合もありますし、やっていることは確実だけれども被疑者の更生の道を考えると、有罪とするよりも、不起訴として更生のチャンスを与えた方が良いだろうという判断で不起訴となる場合もあります。

問題は、不起訴の報道がなされる時に、検察は「不起訴の理由を明らかにしていない」という報道がなされ、理由がよくわからないことです。

今回、なぜ理由についての報道がなされないのか、その事情がわかる裁判があったのでご紹介します。

名古屋高等裁判所であった裁判で、名古屋地方検察庁から暴行容疑について「起訴猶予」という不起訴処分を受けた原告が、起訴猶予を理由に勤務先の愛知県教育委員会から受けた処分に関連して、不起訴の理由を「起訴猶予」から「嫌疑なし」に変更することなどを国に求めていた裁判です。

結論からいうと、判決では、不起訴理由を「嫌疑なし」に変更することは認めませんでしたが、名古屋地方検察庁が愛知県教育委員会に起訴猶予という不起訴理由を伝えたことは、違法だとして国に5万円の賠償を命じました。

理由として、起訴猶予は容疑事実は明白だと検察が判断したことを意味しており、これが明らかになれば容疑者の名誉・信用を損なうと指摘し、起訴された事件でも無罪になることがあるため、容疑事実が明白だとして起訴猶予しにした検察の判断が、正しいとは限らないとしています。

このような性質を有する情報を、名古屋地方検察庁が原告の承諾なしに外部に明らかにしたことで、名誉を損ない無罪推定の権利を侵害したという認定がなされています。

正しいとは限らない起訴猶予という名古屋地方検察庁の判断が、愛知県教育委員会に伝えられたことで、愛知県教育委員会による懲戒権の適切な行使も妨げたとしています。

検察が、不起訴理由を隠す理由として、本当はやっているけれども無罪にしたいから恣意的に隠すというよりも、起訴猶予なら起訴猶予で、やっていると判断していることになりますが、裁判を経ていない以上、それが不確実なのに有罪であるかのうような印象を与えてしまうことや、嫌疑不十分なら不十分で、やっているかもしれないけれども、上手く捜査が進まず、有罪に持ち込めなかったということを明らかにしてしまうことにもなります。

いずれにしても現在の刑事手続では、検察側が不起訴理由を公開するメリットがないわけです。

ただ、やっているけれども適切に起訴手続きがなされていない場合のチェックは必要になるので、その辺の制度改正は必要かもしれません。