オリンパスの損失隠しが発覚した問題で、適正な監査が行われず、損失隠しを見逃して会社に損害が生じたとして、オリンパスの株主が、あずさ監査法人を訴えていた裁判の判決が、東京地方裁判所でありました。

結論としては、東京地方裁判所は、株主の請求を棄却しました。

オリンパスは、損失を海外のファンドに付け替える、いわゆる「飛ばし」を行っていましたが、あずさ監査法人は、これらの取引を取り消させるなどの対策を行っていたとして、裁判所は、あずさ監査法人が妥当な監査を怠っていたとはいえないと認定しました。

損失隠しが巧妙で、虚偽を疑うことが困難であったとしています。

今回の事案の特徴は、不正を見抜くこと自体が困難だったとされたことです。

通常、監査法人や公認会計士は、監査のプロですから、不正自体には気づくことが多いのです。

ところが、今回は不正を見抜くこと自体が難しかったと認定されています。

企業による不正が生じる背景には、業績が悪化し、経営が成り立たないので、不正な会計により、業績の悪化や損失を隠したいという動機が存在します。

企業側が業績悪化や不正な会計を隠そうとしても、監査法人や公認会計士は、監査のプロなので不正には気づくことが多いわけです。

それでも、なぜ不正が行われるかといえば、業績悪化や不正な会計が発覚した場合、企業の存続自体が危ぶまれるからです。

監査法人には、監査のプロとして重い責任が負わされています。

公認会計士としては、不正な会計は許してはいけないけれども、自分が不正を公表すれば、その企業の存続が危ぶまれ、場合によっては多くの従業員が路頭に迷うかもしれないという事情を無視できないのです。

そのような結果と職責の板挟みになり、自殺してしまう公認会計士が、これまで何人も出ています。

企業側の、不正を隠したい動機と、公認会計士側の公表しにくい事情が重なってしまうのです。

今回の裁判では、不正を防止するまでの厳しい責任を監査法人側に負わせにくいという事情が、損失隠しが巧妙に行われたので任務懈怠が認められないという判断にも作用しているのではないかと考えられます。

監査の妥当性について結果責任のような厳しい水準までは要求しにくいのです。

ただ、明らかに不正がわかっている場合は、判断も異なってくると思います。