2022年に、愛知県警岡崎署の留置場で、勾留中の男性が死亡するという事件がありました。

留置主任だった元警部は業務上過失致死罪で罰金80万円の略式命令で有罪になっています。

こちらは、刑事裁判ということになります。

今回、遺族が、県に損害賠償請求をしている裁判の第2回口頭弁論が、名古屋地方裁判所でありました。

なんで警察官の行為で、県が被告になるか、疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、原則的に公務員が通常の業務の範囲で行った行為については、個人で責任を負うことは原則としてなく、損害賠償請求の場合、民事訴訟として公務を所掌している上級行政庁が被告になります。

今回の場合、警察官の所属していた愛知県警の上級行政庁である愛知県が被告になるのです。

こちらは民事裁判ということになります。

その原告側(遺族側)の準備書面の内容から、刑事裁判についても、本当に略式命令でよかったのか疑問になるような内容が明らかになってきています。

略式命令というのは比較的簡易な手続きで、有罪であるにしても軽い罪について出されるのが通常です。

ところが、今回、民事訴訟の準備書面の内容からは、留置主任だった元警部が、部下への引継ぎの際に、死亡した男性の身体拘束について「ストレス発散だと思ってやってもらえばいい」などと発言し、144時間にわたって、身体を拘束していた疑いが出てきました。

男性が衰弱してきたため、部下らが栄養剤の投与を提案すると「値段が高い」と拒否し、「死ぬことがないようにしましょう」などと発言していたと原告側は主張しています。

準備書面の内容ですからあくまで原告側の言い分ということになりますが、権力を持たない側が、一方的に言いがかりをつけるということはあまりないのではないか思います。

仮に事実だとすると、原告側が主張するように、元警部の行為は、業務上過失致死などではなく、特別公務員暴行陵虐罪という罪に当たる可能性が出てきます。

一度刑事事件で有罪が確定しているので、もう罪に問われないか、あるいは、これまで明らかになっていない事実が明らかになったとして、前の裁判で審理されていなかった行為について、改めて刑事手続きが進むかは微妙なところです。

新たに明らかになった事実に基づく行為が、前回の刑事裁判の訴因と同一性があるかどうかによります。

同一性があると判断されるにせよ、同一性がないと判断されるにせよ、前回の刑事裁判で、業務上過失致死にしか問われていないうえ、略式命令で終わっていることに対して、疑念が出てくる結果になっています。