2013年から2015年の間に、国が生活保護費を引き下げたのは違法だとして、減額決定の取り消しを求めた裁判の上告審判決が、最高裁判所第三小法廷でありました。

判決では、生活保護費の引き下げを違法として減額決定は取り消されました。

この判決により、2013年から2015年の間に、減額された生活保護費を給付されていた人には、今回の裁判に加わっていなくても、差額分が支給される可能性が出てきます。

そのため、この判決で行政は混乱しそうです。

この判決については、「生活保護費の減額は違法」などの報道があるため、誤解が生じやすいのではないかと思い、記事にしたいと思います。

判決を読んでみると、生活保護費を減額すること自体が違法とは言っていないようです。

経緯としては、当時の厚生労働大臣が、食費など生活扶助の基準額を物価の下落に合わせて引き下げる、いわゆる「デフレ調整」を行っていました。

これについて、判決では、従来の生活扶助の基準額は、世帯支出など、消費動向などを参考に決められていたのに、今回の「デフレ調整」では、物価下落のみが指標とされたとして、専門家による検討がなされておらず、専門的知見との整合性を欠いているとして、厚生労働大臣の判断には裁量権の逸脱や濫用があったとしています。

国の損害賠償責任については、生活扶助の額を決める指標を変えるという考え方はあることから、認められませんでした。

報道もこれを理解したうえでの表現だと思いますが、生活保護費を引き下げること自体が違法と読む人がいるのではないかと思うので、少しフォローしたいと思います。

今回の判決は、生活保護費を引き下げること自体が違法という、制度後退禁止の原則に反するというような判断をしたわけではないようです。

制度後退禁止の原則とは、一定の額の給付が不十分と考えられる場合や、支給自体が全くされないことが、直ちに違法とは言えない場合でも、一旦支給されるという制度ができたり、支給基準が確立されたのなら、正当な理由なしに、制度や、額や基準などを引き下げたり、廃止したりすることは禁止されるという考え方です。

今回の裁判では、そのように生活保護費を引き下げたという「結果」に着目するのではなく、引き下げる際の判断過程に注目して不十分な点がないかを審査したわけです。

行政法でいう判断過程審査という判断手法を用いたのではないかと思います。

そのうえで、専門家による検討を踏まえて、専門的知見に基づく判断によって引き下げられたわけではないため、判断過程に「考慮不尽」の瑕疵があったとして、厚生労働大臣の裁量権の行使には、逸脱、濫用があったとしているのです。

言い方を換えると、この判決が出た後も、専門家の合理的な判断に基づく引き下げであれば、生活保護費の引き下げが適法と判断される余地があるということになりそうです。

今回、判断の仕方が良くなかったので、結果的に違法になったのであって、引き下げること自体が違法とは言っていないと読んだ方がよさそうです。