刑事事件で訴追されても、被告人には黙秘権があります。

ただ、氏名については、原則として黙秘はできないと解されています。

刑事裁判をするうえで、被告人を特定することが必要だからです。

これに関連して、ちょっと変わった裁判がありました。

コンビニエンスストアで、缶ビール1本を万引きしたとして窃盗罪の容疑で逮捕された男の裁判です。

被告人は、捜査段階から氏名や生年月日を答えず、そのまま裁判手続きが進みました。

たまに、氏名をいわない被告人がいるので、このような場合は、勾留番号などで被告人が呼ばれることがあります。

神戸地方裁判所は、男に罰金15万円の判決を言い渡しました。

その際、裁判官が、「30年以上裁判官をやっていますが、名前がわからないまま判決を伝えるのは初めてです」と言ったそうです。

被告人が氏名を答えなくても有罪判決は出るのです。

言い方を換えると、氏名を答えても、答えなくても有罪になる可能性はあるため、黙秘権は及ばないともいえるのです。

被告人の男は、事件前1月ほどは野宿生活を送っていたようです。

その前は友達の家に2、3か月ほどいたと供述したようですが、友人の名前は答えなかったようです。

そのため、罰金が払えなくても、差し押さえができません。

どこの誰だかわからないので、資産があるのかどうかもわかりません。

これからどうするかは、考えていないそうです。