三菱UFJ銀行の勤務先の貸金庫から、顧客の預けた金品(計約3億9000万円相当)を盗んだとして窃盗罪に問われた元行員に懲役9年の判決が言い渡されました。
これを不服として被告人側は、東京高等裁判所に控訴しました。
一般に、銀行には、民事でも刑事でも甘めの判決が出ることがありますが、その裏返しとして、銀行への信頼を裏切った被告人には、厳しい判決になっているのではないかと思います。
現行刑法では、応報的な要素は少なくなっていると考えてよいはずなのですが、求刑が12年だったことを考えると、相当厳しく非難されていると捉えてよいと思います。
被告人は、控訴しているので、本当に反省しているのかといいたくなりますが、同時期に出た判決を見るとそうも言えなくなります。
例えば、火災現場での捜査中に見つけた現金計640万円を盗んだとして、窃盗罪で起訴された元警視庁捜査1課警部については、懲役3年、執行猶予5年の有罪判決が出ています。
執行猶予については、懲役の場合は3年以下の場合でないと付けられないので、求刑が3年だった時点で執行猶予が付く可能性はあったわけです。
それでも、執行猶予が付くことで、捜査中に火事場泥棒をはたらいた元警察官は、塀の外で生活できることになり、貸金庫から窃盗をはたらいた元行員は、実刑で懲役9年ですから、かなりの開きがあります。
ただ、これは検察官や裁判官の判断のバランスが取れていないというより、執行猶予を付けるか、付けないかの判断により、開いてしまった差というのが実際かと思います。
応報的な要素を考えると、元行員は、もう高額の人の財産を管理する職業には就けない気がするので、長期で拘束してもあまり意味がない気がします。
「頂き女子りりちゃん」の件の判決を考えても、多数の被害者を出す経済犯罪では、重めの判決になるということは言えそうです。
それだけでなく、被害額の差はもちろんありますが、元行員の場合、盗めないはずのものを、あえて巧妙に盗んでいるのに対し、元警察官は、捜査とはいえ目の前に現金を見れば誘惑にかられるだろうという犯行態様の差に加え、先程の執行猶予が付くか、付かないかで、これだけの差がついたのではないかと思います。
なお、どちらも処断刑は、懲役ですが、現行刑法では、改正により懲役がなくなり、拘禁刑となっています。
刑法では、法律が改正された場合、不遡及が原則となります。
そのため、犯罪の行為時の法律が適用されるため、両方とも懲役刑が出てきているわけです。