裁判所で珍しいミスがありました。

手続き上のミスで最高裁判所が原判決を破棄し、審理を差し戻したのです。

どのようなミスかというと、口頭弁論に関与していない裁判官が判決に署名押印していたのです。

民事訴訟法では口頭弁論に直接関与した裁判官しか判決を作成することができません。

これを直接主義といいます。

これは、判決の基礎になる事実の認定は裁判官の自由な心証によって形成される(自由心証主義)ことと関係しています。

民事訴訟では事実を認定するには証拠方法や証拠力の評価が自由とされるだけでなく、口頭弁論の全趣旨が斟酌されます。

口頭弁論の全趣旨とは、口頭弁論で話した内容だけでなく、陳述時の当事者の態度なども斟酌されるということです。

ですので、当事者の陳述の様子などを直接見ていた裁判官しか判決を作成できないことになっているのです。

ところが今回最高裁判所に上告された高等裁判所の判決には、口頭弁論に関与していない裁判官の署名押印があったのです。

裁判官は、転勤などの異動は珍しくありませんので、口頭弁論に関わった裁判官が判決までずっと事件を担当するとは限りません。

そのため口頭弁論では弁論の更新といった手続きも用意されていますし、判決についても判決を作成し、署名押印していれば、別の裁判官が言い渡すことはできます。

しかし、今回の判決では、誤って口頭弁論に関与していない別の裁判官が署名押印しているので、違法な判決ということになってしまうのです。

裁判官といっても人間ですから、このようなミスもしかたないことかもしれません。

反対にあまり聞かないということは、細かな手続き規定に沿って、通常の裁判が処理されているということになります。

ただ、民事訴訟の場合、手続きの進行上、重大な手続き上の違法でなければ、当事者がその誤り(瑕疵)を指摘せず放置した場合、その誤り(瑕疵)は無かったこととして手続きが進みますから、手続き上の細かい規定を気にせず裁判官が訴訟指揮をすることがあります。

そのため弁護士の間では手続き上の決まりを一番守らないのが裁判所などと言われることがあります。

大きなミスは気にしていても、細かな規定は案外気にしていないのかもしれません。