今日から民法第121条の2(原状回復の義務)について書きたいと思います。

条文の「の2」の部分を枝番号といいます。

枝番が入っていることからわかるように後から挿入された条文です。

原状回復については従来から民法第703条と民法第704条がありましたが、双務契約のように当事者双方に原状回復義務が生じるような場合を想定していなかったため、本条が設けられました。

民法第120条(取消の効果)に続く規定になります。

取り消しに続けて規定されていますが、法律行為の無効全般についてあてはまる条文です。

法律行為や契約は、その実現に向けて動いていきますが、当事者の意思の実現に向かっていく表の関係を「行きの関係」とするなら、無効な場合の原状回復や契約が解除されたときの裏の関係は「戻りの関係」ということもできます。

戻りと表現すると、解除の効果について特定の学説の立場(間接効果説)に立っているような誤解を与えるおそれがあるため、法的には無色な意味で使っていることがわかるように、「戻りの関係」というように、この記事の中ではカギカッコを付けて書くことにします。

原状回復義務については旧第120条但し書が取消の場合に受けた利益の返還義務を定めていて、この規定の法的性質は不当利得の返還であると言われていました。

そのため新たな民法第121条の2についても法的性質は不当利得の返還についての定めと言われています。

先程書いたように民法第121条の2は、「戻りの関係」について当事者双方に原状回復義務が生じる点で、契約の解除の場合の原状回復とも関連しています。

他の制度とも重なる部分があるため、民法第121条の2を理解するには、不当利得(民法第703条民法第704条)、契約の解除(民法第545条)の理解も影響してきます。

そこで今回の改正では不当利得については改正がなされていませんが、不当利得について書きます。

不当利得とは、法律上の原因がないのに、本来利益の帰属する者の損失に対応して、他の者が利益を得る場合をいいます。

この不当利得について返還義務を定めたのが民法第703条と民法第704条です。

当事者の公平の理念に基づくと言われています。

当事者と言うと契約関係を頭に浮かべる人もいるかも知れませんが、不当利得が事務管理や不法行為と並んで記述されることが多いように、事実行為から生じる場合を含んでいます。

つまり法律行為(契約)に基づかない当事者間にも不当利得の返還の問題が生じ得ることになります。

当事者の公平により統一的に解釈する立場とは別に、給付する者の意思に基づく給付利得や侵害によって利益を得る侵害利得などの類型によって区別する類型論も有力に主張されています。

類型論は給付利得や侵害利得以外の類型を認めるものもあり議論が錯綜しています。

どのような類型を認めたとしても分類することで事案が解決されるオーダーメイドのようなものではなく、類型が原状回復を考える場合の指針となるパターンメイドのようなものだとイメージした方が良いでしょう。