昨日、ちょうどアスベスト被害に関する訴訟の記事を書きました。
除斥期間が争点になっていました。
制度趣旨としては、法律関係の早期安定ということが挙げられます。
前回の記事では、「権利の上に眠る者」は保護しないという建前があることを書きました。
書いていて、本当にそうかと改めて疑問に思いました。
そう感じている矢先、最高裁判所で実父から子供の頃に性的虐待を受けていた女性が、損害賠償請求をした裁判の上告審で、請求が棄却されたというニュースが入ってきました。
この女性は40代になってから実の父親を訴えていますが、裁判所は遅くとも20代には精神的苦痛が生じていたとして、訴えを提起した時点で、20年の除斥期間が経過しているため、損害賠償請求が認められないという判断をしたのです。
不法行為の除斥期間は、現在法改正され消滅時効に変更されています。
前回の記事も、今回の記事も、古い事件なので、20年の除斥期間が問題になっています。
ここへきて、例えばこの女性が、本当に権利の上に眠っていたのかと疑問を感じます。
性的虐待を受け、若い頃は好奇の目にさらされるのを恐れて、訴えを提起できなかったということも考えられます。
民事上の取引についての法律関係なら、早期安定ということも当てはまるかもしれませんが、刑事事件や不法行為で、消滅時効を認める必要があるかか疑問です。
だからこそ法改正されたのかもしれませんが、消滅時効に改正されてたところであまり変わらない気がします。
証拠の散逸など、訴訟手続き上の理由もありますが、デジタル化が進んでいる現在、文書や画像など、ほとんど劣化せずに存在するものもあります。
それを考えると、刑事事件や不法行為について、法律関係の安定や「権利の上に眠る者」は保護しないなどというのは、表面上の話で、実際には、刑事手続きにかかわる関係者や裁判所の取り扱う仕事が増えてしまうので、権利者にあきらめてもらう制度というのが実際のところではないかと思うようになってきています。
だとしたら、テキストなどに記載する制度趣旨としても、被害者の保護を打ち切る制度とはっきり書いた方が、まだ理由としてわかりやすいのではないかと思います。