不動産について相続が発生しても相続登記をせずに放置しているとことがあるため、実際の権利者がわからず問題になっています。

相続登記を義務化しようという意見も出ています。

このような問題もあって昨年、相続登記の義務化までは行きませんが相続法の一部に改正がありました。

特に重要だと思われる民法第899条の2について解説してみたいと思います。

この改正により変化があると考えられるのが以下のような事案です。

【事案】

旦那さんのAさんが亡くなり遺産は全て奥さんのBさんに相続させると遺言を残して死亡したケースです。

Bさんの他に相続人としてAさんのお兄さんであるCさんがます。

Aさんの財産の中には不動産が含まれています。

遺言書があるにも関わらず兄のCさんが自分が不動産を相続したように登記を済ませ赤の他人であるDさんに売ってしまいました。

買った時にDさんは登記も済ませています。

【法改正前】

このような事案で相続法の改正前は遺言書に奥さんのBさんに財産の全てを相続させると書いてあるのであれば、それが優先し奥さんのBさんは相続登記をしていなくても買い主のDさんに自分が権利者だと主張できる事になっていました。

これは条文上の解釈というより、条文からの結論がよくわからないため、同様の事案が裁判で争われ判例でそう解されていたのです。

理屈としては遺言書に書いてあるとおり相続が発生した時点で全ての財産は奥さんであるBさんのものとなり、結果的に相続人の1人であるCさんは無権利者となります。
このため無権利者であるCさんから不動産を買ったというDさんに対してもBさんは登記が無いまま不動産についての権利を主張できることになっていました。

結論を根拠付ける条文としては

民法第177条「不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。」

がありますが、解釈としては<無権利者>は登記がなければ対抗できない「第三者」には当たらないからということになります。

この結果Dさんは登記を済ませていても、それは無効な登記ということになり権利者にはなれないということになっていました。

ただこのような結論をとると買い主Dさんは実際の相続人の1人であるCさんから不動産を買ったにもかかわらず不動産についての権利を取得できず、遺言書の内容を知らないDさんにとっては一方的に不利になります。

しかも相続登記をしないまま放置しているBさんを保護することにもなってしまいます。

そこで民法の相続法が改正され次のようになりました。

【法改正後】

民法第899条の2第1項

「相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第901条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。」

という条文が民法に追加されました。

この条文の意義は、相続による不動産の権利の承継についての法律関係を決する基準として、売買などの権利の承継についての民法第177条と同じく、登記を対抗要件にすることを明記したことです。

民法第177条は登記を早くした者が勝つという早いもの勝ちの原理です。

つまり相続の場合も不動産の権利の取得は早く登記をした者の早い者勝ちになったということになります。

勿論、改正前と同様無権利者が早く登記をしても意味はありません。

この民法第899条の2第1項を先の事案に当てはめると

Bさんは登記をしなければ(対抗要件を備えなければ)Dさんに権利を主張できない(対抗できない)

ことになります。

改正前と異なり登記をしないと権利者であると主張することができなくなりました。

このように相続登記を放置しているままだとBさんは自分の権利をDさんのような立場の人に主張できなくなります。

先の事案で言えば不動産の権利の一部はBさんではなくDさんのものになってしまうということです。

注意が必要なのは法改正によって法定相続分を超える持分の取得についての判断に変化が出てくるということであって、もともと遺言によらなくても取得するはずだった法定相続分による持分についてはこれまでどおり登記がなくても第三者に対抗できるという結論に変わりはありません。

法改正による結論としてまとめると相続によって権利を取得しているなら早く登記した方が良いということになります。