先日このブログで少ない訴額で訴訟提起される場合には、訴訟の目的が真逆である場合もあるということを書きました。

そのうち1つとして損害賠償請求をする場合に試験的に少ない訴額で訴えて、勝訴の見込みがあれば残額についても訴訟提起するというケースがあることを書きました。

これは少ない額で訴えることを直接禁じる規定が民事訴訟法にはないということでもあります。

訴額が少ないケースのもう1つとして法的な判断を得ることが目的で、お金目的ではないことをはっきりさせる場合があるということも書きました。

極端な場合1円訴訟というのもあるということを書きました。

この両方のケースを見て、理論的に鋭い人の中には次のようなことに気づく人もいらっしゃるのではないでしょうか。

では<10万円請求する場合に、1円ずつ10万回に分けて裁判で請求することができるか>という問題です。

先程書いたように形式的にはこれを禁ずる規定は民事訴訟法にはありません。

しかし結論から言えばこのような訴え提起の方法は認められないと思います。

ある程度まとまった額の一部請求はできますが、10万回に分けるという程常識から外れると認められることはないでしょう。

理由を挙げると

1円ずつ請求しなければならない事情が考えにくいこと

同じ債権の発生原因に基づく請求の審理を何度も繰り返さなければならなくなること

が挙げられます。

裁判所の機能という限られた資源を有効に活用するという訴訟経済の要請も民事訴訟法上は重要なのです。

そのため直接の禁止規定はありませんが、法律構成を考えるとすれば訴権の濫用として訴えが却下される可能性が高いと思います。

このように条文がなければ何でもできるということではなく、明らかに不合理な結果が生じる場合は、権利濫用の禁止や信義則などの一般条項を用いて不都合な結果を回避することがあるのです。

一般条項を用いるというのは、法的には本来できることをできなくする、できないはずのことをできるようにする、ということでもありますので、何でもありと思われないように法解釈としては最後に用いる手段でもあります。

特に今回のような問題では訴えを認めないとすれば、裁判を受ける権利(憲法第32条)の制約にもつながるため、このような対立利益にも配慮したうえで判断することが重要になります。