最近このブログの記事で、法改正により相続登記が義務化されることを書きました。
そこで今回は相続登記を通じて相続で権利や義務が移転するというのはどのような意味なのかについてご説明したいと思います。
まず、相続登記は権利の移転登記の一種です。
売買などで不動産の所有権が移転する場合と同じように権利の移転登記に含まれます。
これに対して、権利者の住所や氏名が変わった場合は「登記名義人表示変更」という登記を行います。
住所や名前が変わった場合は権利が移転しているわけではないので登記の種類が異なるのです。
では売買などの権利の移転と相続は完全に同じなのかというと、これも異なる部分があります。
売買は特定の不動産について特定の権利のみが個別に移転しうるという意味で特定承継と呼ばれます。
買主は土地は買うが、建物は買わないということもできますし、土地の全部は買わないが、2分の1だけ買うということもできるのです。
これに対し相続は不動産についての権利だけでなく他の権利や義務も全部移転します。
不動産だけを例にとったとしても目的物の一部や一部の権利のみが個別に移転することはなく、全体として移転することになるので一般承継あるいは包括承継と呼ばれます。
これは持ち分移転がありえないと言っているわけではなく、被相続人が持っていたのが権利の持ち分であれば、その持ち分が全部移転してしまい、その持ち分の一部のみが移転することは無いという意味です。
言葉で説明すると、この辺りがわかりにくいと思いますので詳しくご説明いたします。
例えば夫が被相続人で、相続人が妻1人、子供1人で遺言がなく、法定相続分で相続する場合で説明すると
被相続人である夫の相続財産が所有権の持ち分2分の1であるのなら、妻へ移転するのは4分の1になるので、今の説明と矛盾するのではないかと思うかもしれませんが、この場合も必ず子供が残りの4分の1を相続するので、被相続人の有していた持ち分2分の1全部が移転しているのです。
では子供が相続放棄していたらどうなるのかといえば、その場合は子供が相続人でなくなり、妻だけが相続人になりますので、妻だけが持ち分2分の1全部を相続することになり、やはり今の説明と矛盾しないのです。
一般の相続人が特定承継や包括承継といった権利の移転の性質の違いを理解しなければならない場面はあまりないと思います。
ただ、この話は、相続ではプラスの財産(積極財産)のみを相続して、借金などのマイナスの財産(消極財産)は相続しないといった選択ができないことや、積極財産のうち価値のある財産は相続するが、価値の低い財産は相続しないなどということができないという話とつながっています。
今申し上げたのは遺産分割ができないと言っているわけではないことにご注意ください。
遺産分割は相続したうえでの分け方の問題です。
今お話ししているのは、相続するものを選んで、選んだものだけ相続できるかという話です。
借金は相続しないとか、自分にとって価値あるものだけ相続するということができないのは、今ご説明したように相続の法的性質が権利義務が全体として移転する包括承継(一般承継)だからです。
つまり相続するなら有無を言わさず全部移転することになるのです。
それが嫌なら相続放棄するか、プラスの財産部分でのみ借金を返済することができる限定承認をする他ないということになります。
最後に、紛争化していない相続問題は行政書士が扱えますが、紛争化しているものは弁護士、相続登記は司法書士の業務となります。