相続登記が義務化されます

空き家問題は勿論、持ち主不明の土地も増え、相続登記が義務化されることになりました。

今年4月に不動産登記法の改正案が成立しています。

2024年頃までには施行されることになっています。

改正不動産登記法では相続後3年以内に相続登記をすることが義務付けられています。

改正法で義務付けられたということは、現在は義務ではないということになります。

現在の不動産登記制度

ここで現在の法制度を確認しておきましょう。

現在の法制度では不動産の権利の登記については相続登記に限らず、登記することは義務ではないのです。

現行法では登記しなければどうなる

登記の公信力

もし現在の権利を登記に反映させずにいて、登記上の所有者(前主など)が第三者に売ってしまった場合どうなるかという問題が起こりえます。

この場合、真実の所有者でない者から、第三者に権利は移転のしようがありません。

真実の所有者でない者から権利を買った第三者は、売り主が所有者だと信じていても権利を取得できないことになります。

このことを登記に公信力が無いと言います。

つまり不動産の権利の登記では、真実の権利関係が優先されるのです。

真実の権利関係が優先され、登記を信頼して取引しても、信頼した者が保護されないのなら登記しなくても不都合はないのではと感じる方もいらっしゃるかもしれません。

そのように感じられてしまうことが相続登記がなされてこなかった理由の1つにもなっています。

ちなみに動産の場合、公信力については、引き渡した状態、つまり占有に公信力があるため、無権利者からでも権利の取得が可能になる即時取得という制度がある点で不動産の場合と異なります。

公信力がなければ大丈夫なのか

登記に公信力がなく、真実の権利者でないものから買った者が権利者になることはないから問題ないかというとそうでもありません。

真実の所有者であっても登記を放っておけない事情もあるのです。

それは権利が観念的なもので、現実世界のリアルな実在とは異なることに主な理由があります。

少し具体例を出して説明してみましょう。

動産の場合

まず、わかりやすくするために土地や建物以外の「動産」の場合で説明します。

物を売り渡した場合、同じ物をもう1人に売ることはできないように思えます。

しかし日本の民法では、同じ物を複数の人間に売ることができるのです。

同じ物を複数の人間に売ったそれぞれの売買契約は有効で、複数の人間に売ったという理由だけで無効になることはありません。

ここでややこしいのが、「同じ物を複数の人間に売ることができる」という表現や「それぞれの売買契約が有効」という表現の意味です。

これは無効にならないというだけで、そうすることがGood、つまり何も問題がないという意味ではありません。

これは法的に無効にはならないけれども、有効であるそれぞれの契約上の責任は負うことになることを意味します。

つまり同じ物を複数の人間に売って、そのうちの1人の人間に引き渡した場合、引き渡した人へは義務を果たしたことになりますが、他の人へは売ったにもかかわらず、売った物を引き渡せないことになります。(「法的に売ることができる」=「実際に引き渡せる」ということではないことはご理解いただけると思います)

引き渡せなかった人に対しては民法上の債務不履行責任を負います。

このように複数の人へ売った場合、取引の態様や取引の経緯によっては詐欺罪や横領罪などの刑事責任を問われる可能性も出てきます。

動産の場合のまとめ

ここまでをまとめると法律上、権利が観念的なものであるが故に、法的に複数の相手に売買が可能で、それぞれの契約は無効とはならずに有効となります。

しかしこれは複数の人間に同じ物を売っても何も責任が生じないということではなく、債務不履行や場合によっては刑事責任さえ生じる可能性があるというものです。

【ポイント】
法的に可能、法的に有効なのに民事上や刑事上の責任が生じる事があるという部分が法律が分かる人と分からない人の違いとなって現れてきます。

この辺りが理解できない人は民法上の責任や刑事責任が生じそうな場合については契約が無効になるのではと考えがちです。

不動産の場合

これを不動産登記の場合で説明し直すと、複数の人間に売ることが法的に可能であり、契約も有効ということや、法的に可能であり、契約が有効ということの意味も動産の場合と同じです。

異なるのは権利者になる可能性がある者の中から権利者が確定し、他の者が権利者ではなくなる基準です。

動産の場合は「引き渡し」を受けた者が権利者に確定するのですが、不動産の場合は持って歩くことができません。

そのため「これは自分の土地だよ」、とか「これは自分の建物だよ」といって持って歩いて見せるわけにはいかないのです。

この引き渡しを受けて所持するということができない不動産については、動産の場合の引き渡しの代わりに「登記」することを基準にしたのです。

権利者となりうる人が複数いた場合に自分が権利者であるということを主張するために登記が要求される、この第三者に権利主張するために必要な要件であるという性質を捉えて、登記は物権変動の対抗要件であると表現します。

不動産の場合のまとめ

ここで再びまとめ直します。

登記に公信力はないため、登記を信頼して第三者が不動産を買っても、その第三者が保護される(権利を取得される)ことはありません。

しかし同じ真実の権利者から他者が権利を取得した場合は先に登記(対抗要件)を備えた方が、真実の権利者となるということが民法第177条で定められているのです。

改めて説明すると日常の語感としては「権利を取得した」なら、その者が不動産の権利者に確定しているという意味になると思いますが、ここでは先ほど説明したとおり権利者になりうる状態で登場してきたという意味になります。不動産についての権利を取得できなくても債務不履行責任を追求できるという意味で権利者であることに変わりないのです。

以上のようなルールがあるため、早いもの勝ちで登記をするだろうと、権利に関する登記が義務にはなっていないのです。

言い方を換えると本人が権利主張できなくなっても構わないならそれでよいだろうという考え方です。

やっぱり相続登記すべき

相続人の数が多くなくても、相続は「争続」と言われるぐらいですから争いのもとになります。

権利関係は早めに確定しておくに越したことはないのです。

それだけではありません。

相続の場合、相続人は複数になることは珍しくありません、その相続人のうちの1人についてまた相続が発生することがあります。

このように相続登記をしないままでいると関係する相続人の数はどんどん増えます。

こうして所有者不明の不動産が生まれてしまい、相続人がわかったとしても相続人同士で会ったこともないという状態も生じるようになります。

知らない人間同士の間で、不動産の権利関係を決めなければならないという事態も生じるようになってきたのです。

更に犯罪の容疑者が逃亡した時に、隠れそうな家の持ち主がわからなくて捜査が進まなかったことがあります。

本人の意思だけにまかせておけない不都合な事が色々と出てきたのです。

現在生じている様々な不都合を回避し、これから不都合を生じさせないためにも、これから相続登記が義務化されていくのです。