東京高等裁判所の判決が、波紋を呼んでいます。
労災と認定されると、労災保険の適用があることをご存じの方は多いと思います。
労災と認定されて、労災保険が支給されると、事業主側には保険料が上がるというデメリットがあります。
労災では最悪労働者が死亡するケースもあるため、労災保険は収入が絶たれる遺族の生活保障としても機能してきました。
それに加え、不服申立て制度について、立法もないため、労災の認定がなされても、事業主側には、不服申立ては認められていませんでした。
この問題に関連して、一般財団法人が職員への労災保険の支給の決定を取り消すよう求めた裁判で、東京地方裁判所も、法人には訴える資格がないとして、訴えを却下していました。
ところが、控訴審で、東京高等裁判所は、職場ごとの労働災害の多寡に応じて保険料が変動するという「メリット制」の下で、事業主側は、保険料が上がるという不利益を受けるので、訴える資格があるとして、地裁判決を取り消し、審理を差し戻しました。
労災認定について、事業主側にとって無過失責任に近い運用がなされていることも、今回の東京高等裁判所の判断に影響していると思います。
事業主側には不服申立てができないというのは、不備があるようにも思えますが、立法がない以上、司法の解釈で不服申し立てを認めてよいかどうかは微妙な問題です。
今回の判決の場合、判決があてはまる射程の短い事例判断であればともかく、保険制度の根幹にかかわる仕組み自体を判断理由にしているため、判決の影響は大きいです。
ただし、東京地方裁判所の判決は却下であって、審理自体を行っていないので、これに対して、東京高等裁判所は審理はしなさいと言っているだけです。
今回の東京高等裁判所の判決は、原告側が主張するように、労災の認定を取り消せと言っているわけではないことには注意が必要です。