民法改正の記事の4回目、代理では3回目の記事になります。
今日は自己契約、双方代理と利益相反の規定についてです。
一見これらの規定と関係なさそうですが代理人の能力の話から始めます。
択一の問題で、制限行為能力者でも代理人になれるかが問われることがあります。
なれるというのが答えです。
民法を勉強すると制限行為能力制度は制限行為能力者を保護する制度なので、代理人してしまってはまずいのではと考えがちです。
しかし、代理制度で法律行為の効果が帰属するのは本人ですから、本人が承知で制限行為能力者を代理人にするなら、代理人である制限行為能力者に不利益はないわけです。
通常本人は代理人の能力を見込んで代理人に選任するので、制限行為能力者を代理人に選任するということは考えにくいのですが、法的には可能であるし、その場合、制限行為能力を理由に代理行為を取り消すこともできない(民法第102条)ということになります。
この本人が見込んで代理人に選任したという信頼を裏切って、信頼に付け込んではいけないというのが今日取り上げる自己契約、双方代理と利益相反についての規定です。
自己契約というのは代理人に選ばれたものが本人の契約の相手方になって法律行為を行う場合を言います。
例えば売り主の代理人に選ばれた者が、代理人なのに買い主になってしまう場合です。
双方代理というのは法律行為の一方の代理人にが、相手方の代理人にもなる場合を言います。
例えば売り主の代理人にもなり、買い主の代理人にもなる場合です。
どちらの本人の利益が害されるおそれがあるというのはおわかりいただけると思います。
利益が害されるおそれということで言えば最後の利益相反は名称からしてそのままです。
利益相反行為とは本人と代理人の利益が相い反する行為を言います。
例えば代理人の債務の担保のために、本人の所有する土地に債権者のために抵当権を設定する行為などです。
抵当権設定契約は土地所有者である本人と債権者間の契約であるため、代理人は契約の当事者となりません。
そのため自己契約でも双方代理でもありません。
しかし、本人が抵当権設定のための代理人に選んでいても、自分の債務の担保のために抵当権を設定するので利益は相い反していることになります。
任意代理の場合、利益相反について定めた規定がありませんでした。
しかし、いずれの行為についても本人の利益が害されるおそれがあり、代理人が本人の信頼に付け込んで利益を得ることを防ぐために改正がなされました。
自己契約と双方代理については規定自体はありましたが、効果が定められておらず、無効になるのか無権代理になるのかで疑義があったため、無権代理とみなされることがが明文化されました。
任意代理の利益相反行為については規定自体がなかったため、同じく無権代理とみなされることが新設されました。
実務的なことを補足したいと思います。
双方代理について実務での取引上見たことがあると感じる方がいらっしゃるのではないかと思います。
これについては双方代理にならないケースが大きく2つ考えられます。
1つは誤解、もう1つは例外にあたるケースです。
例えば不動産取引です。
不動産取引では仲介業者が売り主とも買い主とも関わるケースがあります。
しかし、通常の関わり方であれば双方代理ではありません。
物件を紹介するために間で両者を引き合わせているだけで、代理人になって法律行為をしているわけではないからです。
そのため不動産仲介について双方代理になるのではないかというのは単なる誤解です。
めでたく売買契約が成立した場合、不動産登記の申請は、通常司法書士に依頼します。
司法書士は売り主、買い主双方の登記申請代理人になるので、こちらも双方代理にあたるのではないかと感じるかもしれませんが、こちらはそう感じるのも不思議ではありません。
これについては、双方代理の例外として判例で認められています。
実体法上の効果(権利変動)はすでに生じていて、登記手続きを行うだけなので、本人を害する可能性が低いというのが理由です。
例外として認められているケースということになります。
不動産取引については宅地建物取引士の勉強をされている方は、実務を知っていると誤解しやすいので注意しましょう。
では、また。