前回、従来の危険負担の理解の前提として、弁済の提供や種類物(種類債権)に特定が生じる場合について書きました。

弁済の提供は、債権者の受領遅滞や弁済の提供の効果と関連します。

種類物の特定は債務者の義務の内容や後に書く債務不履行とも関連します。

そのため、前回書いた弁済の提供や種類物の特定についてもう少し書いてみたいと思います。

まず、物権の移転については意思表示のみで生じることが従来から定められているので(民法第176条)、売買の例で言えば、売ります買いますと合意したときに所有権が移転することになります。

前回、今回の改正で危険の移転時期が「引き渡し」のときに変更されたことを書きました。(民法第567条第1項)

これにより、従来は権利の移転時期と危険の移転時期を統一的に解する考え方もありましたが、権利の移転時期と危険の移転時期が異なることが明らかになりました。

めでたく物権が移転したとしても(物権法の問題)、自動的に債務が全てが履行されたことにはなりません。(債権法の問題)

そのため契約を守ったと言うためには、契約内容に従った債務の履行が必要になります。

債務が履行されているかどうかを判断するためには、目的物が特定し、弁済がなされていて、債権者が受領したかの判断が必要になります。

弁済の提供、種類物の特定、債権者の受領遅滞のそれぞれの関係についてですが、これは債務の内容によってそれぞれの関係が決まってきます。

種類物については、特定していなければ有効な弁済の提供にはなりません。

また、種類物に特定が生じないうちに滅失しても、本来の債務を履行する義務は残ります。

これに対し、種類物に特定が生じた後は、債務者に帰責事由があれば、別の機会に書く、債務不履行の中の履行不能の問題となります。

種類物が持参債務になる場合、債務者は債権者の所へ出向いて現実の提供をすることになりますので、このときに、弁済の提供がなされ、種類物が特定し、債権者は受け取らないと受領遅滞に陥ることになります。

別々の制度ですが、1つ1つを検討していくと同じ時期になってしまうのです。

特定物が取立債務である場合、口頭の提供なされたか、債権者が受領遅滞となるかは、時期が異なっても不思議ではありません。

取立債務で種類物が特定する時期も口頭の提供が完了する時期や受領遅滞の時期と異なり得ます。

元々それぞれが別々の制度ですので、別々だということが表面化するだけとも言えます。

種類物は持参債務だと書いたのに、取立債務になることがあるのかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、債務の内容や履行地は合意により変えることができます。

ただし、合意内容に応じて、合意部分以外にも債務の内容に変化が生じることもあります。

別々といっても関連しているからです。

例えば、通常特定物で必要とされる口頭の提供の内容は、準備と通知ということになります。

これを種類物について当事者の合意で、取立債務とすると、口頭の提供の内容は準備、分離(他の種類物からの)、通知という内容になります。(特定物ははじめから特定されているので分離の必要はないわけです)

取立債務について弁済の提供が行われたか、特定が生じたか、受領遅滞となっているかは個別に判断することが必要です。

様々なケースが有り、それぞれが問題になるタイミングで、債務が全部不能になる場合や一部不能になる場合などが生じうるので、実際の事案はもっと複雑になります。

1つ1つ要件を満たしているか検討し、どの時期に、何が生じているかを確認していくことが重要になります。