一方債務が履行不能となった場合に、当事者双方に帰責事由がない場合に反対債務がどうなるかを規律する危険負担については以前書きました。

そこで、今日は履行不能となったことに債務者に帰責事由がある場合である債務不履行について書き、履行不能以外の債務不履行についても触れたいと思います。

まず、民法第412条の2第2項が、契約の成立のときに不能であった場合も、民法第415条(債務不履行)の損害賠償の請求を妨げないと規定したことにより、原始的に不能な内容であっても契約の目的とすることができることや、原始的に不能な場合にも債務不履行の問題となりうることを危険負担についての記事の中で書きました。

この規定によって、従来の制度理解である、債務不履行を後発的不能と捉えることに意味がなくなりました。

履行不能には契約締結前にすでに履行不能である原始的不能を含むことになったからです。

次に、履行不能の「不能」についてですが、目的物が滅失してしまった場合などはわかりやすいですが、物理的不能以外にも、目的物を第三者に売ってしまった場合など、目的物自体存続する場合にも不能と言えるのか、どのような場合に履行不能と言えるかが問題になります。

改正により「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」不能であるときと規定されました。(民法第412条の2第1項)

これについて、面白いことに気づきました。

前回書いた種類物に特定が生じた場合の債務者の注意義務は、善管な管理者の注意義務(善管注意義務)とされています。(民法第400条)

以前と変わらないのですが、以前は一般的、抽象的に善良な管理者の注意義務と規定されているだけでした。

これが今回の改正で「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」定まる善良な管理者の注意義務と規定されています。

善管注意義務の内容が、債務の発生原因によって、社会通念に基づき解釈によって義務の内容が導かれることが明記されたのです。

この基準が、履行不能を判断する基準と表現が同じなのです。

考えてみれば、履行が不能となる場合は、債務者に課されている注意義務が果たせなくなった場合と言い換えることができるので、両者が同じ基準で判断されるのは不思議ではないのかもしれません。

民法第412条の2第1項の規定により履行不能は物理的不能だけではないことがはっきりしたことになります。

債務不履行についてはこの履行不能の場合(民法第415条)以外に、履行遅滞(民法第412条)、債務の本旨に従った履行がない場合(民法第415条)を規定しています。

従来は、履行不能、履行遅滞、不完全履行でしたが、不完全履行については直接定めた条文がなかったため解釈により処理されていました。

今回の改正で債務不履行を規定する民法第415条は、履行不能と従前の不完全履行にあたる債務の本旨に従った履行がない場合を中心に損害賠償責任を追及する制度として規定されています。

これにより解除は債務不履行から切り離され、全部不能も、一部不能も、共に債務者の帰責事由を問わず無催告で解除ができる制度となっています。(民法第542条)

解除権は債務者の帰責事由を問わず認められますが、債務者に帰責事由があって債務不履行になる場合にも、これらの規定を組み合わせることにより、解除できることに変わりありません。

損害賠償請求を追及するための制度としての性質が強調されることになった債務不履行制度ですが、債務者の帰責事由の内容については、従来から不法行為の場合と同じ故意又は過失とされていました。

しかし、過失責任主義は自由保障を前提とするものなので、不法行為責任にはあてはまっても、債務不履行にはあてはまらないのではないかという考えも有力に主張されてています。

この論争については、今回の改正で解決したわけではありません。

結論の落ち着きどころは改正前と同じはずなので、帰責事由の判断に困ったら、過失の内容としてにせよ、免責が認められる場合としてにせよ、先程書いた「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」要求される債務者の義務に反している場合と考えても、それほど違っていないのではないかと思います。