前回書いた、箱の中の2色のボールの例では、1つ取り出して、その色がきまると、その時点でもう一方の色が決まります。

取り出すまで「色が決まっていない」、つまり観測するまで「物事の状態が決まっていない」という事があるというのが量子論の考え方です。

それでも、アインシュタインや、シュレディンガーは、状態はすでに決まっていて、わかっていないだけだと考えたのです。

ここが量子論の大きな難所です。

シュレディンガーの猫の思考実験が正しいか確かめようとしても、箱の蓋を開けてしまうと結果が出てしまうため、確かめようがないのです。

そのため、この議論は、すぐに廃れるかのように思えました。

この難問を解決するには、振り返って考えてみると2つの大きな壁を乗り越える必要があったのです。

1つ目は、古典力学で説明できない問題なのに、古典力学に従った実験を行って正しさを確かめられるかどうかという理論上の問題です。

2つ目は、量子という微細世界の問題なので、どのような実験で確かめるかという問題です。

まず、ション・スチュワート・ベルと言う人が、1つ目の問題である、シュレディンガーの猫が正しいかどうかを確かめる理論上の方法を思いつきました。

古典物理学では、ある物理現象は、その物理現象が起こる場所に局所的に影響を及ぼすという局所性原則があります。

ベル自身はアインシュタインと同じ側、つまり結果はすでに出ているという考え方だったので、実験の結果が局所性原則に従っている場合に、結果の示す上限を規定する不等式を導き出したのです。(ベルの不等式)

量子論では、この局所性原則が破れていると考えます。(ベルの不等式の破れ)

つまり、量子論では、実験結果は不等式の上限を超えることになります。

ベル自身はアインシュタインと同じ側、つまり結果はすでに出ているという考え方だったので、古典物理学の法則に従う限り、数学的にベルの不等式で示された上限は超えないと考えていました。

古典物理学で説明できる現象なら、追い込み漁の魚のように、実験結果の値はベルの不等式の範囲に収まって行くはずでした…。

続きは次回書きます。