前回、ジョン・スチュワート・ベルがシュレディンガーの猫で言われている内容について、正しいかどうか確かめる方法を考えついたことを書きました。

シュレディンガーの猫の内容が正しいかどうか、確かめるためには、

1古典物理学に従った実験で正しさを確かめられるのかという理論上の問題と

2それをどのような実験で確かめるのかという問題が

超えなければならない壁だったということも書きました。

ベルが、ベルの不等式を導き出した後、いろいろな研究者が、実験結果が不等式のどちらに収まるのかを確かめることに挑戦しました。

ただ、この実験も、量子論の扱う極小世界の実験ですから困難を極めました。

まず、前提を確認しておきます。

光は波であり粒子であるという二重性を持っています。

これは量子論で、光子以外の量子にも当てはまります。

電荷がプラスかマイナスか、スピンが上向きか下向きかなど二重性を持つのです。

これは、量子同士に複数の可能性が重なっている状態があるということで、必ずしも2つに限りません。

この量子同士の何らかの結びつきを「量子もつれ」といいます。

シュレディンガーの猫の生きた状態でもあり死んだ状態でもあることや、箱の中のボールが2色混ざった状態というも、この「量子もつれ」という考えに繋がっていったのです

猫で確かめることはできませんので、研究者は光子のスピンを観測することにしました。

ここで、スピンが何かを解説します。

原子核の周りには電子が回っていると説明されます。

ちょうど太陽の周りを地球が公転しているような感じです。

地球を電子に例えると地球が自転している状態が電子のスピンです。

つまり電子の動きは原子核の周りを公転しながら自転しているという状態に例えることができます。

ただ、これはあくまで例えです。

よく言われる、原子核の周りを電子が公転するように回っているという例えや、スピンが自転に例えられるのも、以前書いたように身の回りの現象に例えないと理解しにくいからです。

実際には、原子核の周りの電子は、雲のような状態で存在し、スピン自体も角運動量であって、実際に回っているわけではないようです。

自転に例えられるため、左右で記述されることがありますが、実際には特定の方向は決まっていません。

「量子もつれ」が存在する場合、2つの量子のスピンは逆向きになるのです。(逆になるのは角運動量の保存則があるからです。)

これは電子だけでなく、他の量子にもあてはまります。

ここまでで前提が確認できたので実際の実験の話に入ります。

研究者たちはまず、スピンの方向がまだ決まっていない放出された2つの光子が、偏光板を通過後に、それぞれのスピンの向きを観測し、その結果を数値化することで、スピンの向きが逆になっているかどうかを確かめ、値がベルの不等式の上限以下なら、「量子もつれ」はないことになり、シュレディンガーの猫の内容は誤りであると証明できると考えたのです。

まず、カルシウム原子に特定の波長の光をあて、光子を2つ放出させます。

この2つの光子を別々の偏光板を通過させて、偏光しているスピンの角度が逆になっているかどうかを観測したのです。

「量子もつれ」が存在するなら、2つある光子のスピンの向きは、1つが上ならもう1つは下向きに決まるわけです。

もちろん、実際には特定の方向を持たないので向きが逆になるだけです。

スピンが逆になっているという「量子もつれ」が存在するのであれば、前回書いたように結果の値は、ベルの不等式の上限を超えてしまうのです。

実際には、ベルの不等式は実験には用いにくいので、CHSH不等式という修正版が作られて用いられることになりました。

2つの偏光板を通った2つの光子は、それぞれ偏光板によって変えられる光の向きに変わってしまうため、1度に1回しか観測できません。

そこで統計的に、何度も実験を繰り返し、実験結果のデータを取ったのです。

結果は…。

続きは次回書きます。