このブログの記事でも以前取り上げた、映画「宮本から君へ」という作品の助成金の交付の内定が取り消されたことを不服とする裁判の判決が最高裁判所でありました。

事案としては、映画「宮本から君へ」について、文化庁所管の日本芸術文化振興会がこの作品への助成金交付の内定を通知していましたが、出演者であったピエール瀧さんが薬物事件で有罪になったことを受け、助成金の交付が取り消しになったことを不服として制作会社スターサンズが日本芸術文化振興会を相手取って、訴えを提起していました。

結論から言うと、最高裁判所第2小法廷は、日本芸術文化振興会による不交付決定は裁量権を逸脱し違法であると判断しました。

第一審の東京地方裁判所は不交付決定を取り消し、第二審の東京高等裁判所は適法としていました。

上告審での逆転判決となります。

最高裁判所は、芸術文化の向上を目的とする日本芸術文化振興会の助成金交付では、一般的な公益が侵害される場合は、交付の消極的な事情として考慮しうるという判断を示しました。

ただし、公益の侵害を不交付の事情として重視できるのは、その公益が重要で、侵害の具体的な危険がある場合に限られるとしています。

更に、公益という概念は抽象的なため、不交付が広く行われれば、表現行為の内容に萎縮的な影響が及ぶ可能性があり、表現の自由を保障した憲法第21条の趣旨に照らして看過しがたいとしています。

そのうえで、助成金の交付によって、薬物を使用する人が増加する根拠は見出し難いく、薬物乱用防止という公益が侵害される具体的な危険があるとは言いがたいと判断しています。

法に素直な解釈によって判断枠組みを提示し、紛争に即して、具体的な検討がなされている判決だと評価できるのではないかと思います。

訴訟の過程で、制作会社スターサンズの代表者であった河村光庸さんが、昨年病気により亡くなられています。

ご冥福をお祈り致します。