1958年に、現在はすでに廃院となっている東京都立隅田病院で、新生児が取り違えられるという事件がありました。

生まれたばかりの赤ちゃんが、本来の親とは違う親の子供として育てられることになってしまったのです。

後にこの男性は、病院の運営主体である東京都を訴え、第1審、第2審ともに、取り違えの事実が認め、2006年10月には東京都に2000万円の損害賠償を命じた判決が確定しています。

その後も、男性は自分の親を探し続けましたが、東京都は親を探すことに協力しなかったため、男性は新たに本当の親の調査を求める訴訟を提起しました。

その裁判の判決が、東京地方裁判所でありました。

結論としては、男性の主張が認められ、東京都に調査を命じる判決が出されました。

裁判所は、「自身の出自に関する情報を知ることは、憲法第13条が保障する個人の人格的生存に重要なことで、法的利益と位置付けられる」としています。

東京都は、調査の過程で、様々な人の個人情報を公開しなければならないため、調査に協力してこなかったと考えられます。

しかし、個人情報の取り扱いが厳格であることや、病院がすでに閉院されていることを考えると、公的機関の協力なしに、個人の力で調べるというのはかなり難しいと思います。

本当の親が生存していた場合、事実を知らされてどう思うかや、その後の家族関係を考えると問題が生じそうだということは予測できます。

さらに、相続関係がどうなるかという法的問題も出てきます。

このような問題はだれもが経験する問題ではないため、調査を命じることを求める社会的運動が起きにくい問題ともいえます。

そのようなことを考慮したとしても、本当の親を知りたいというのは、自然な感情だと思いますので、今回の判決は、妥当な判決になったのではないかと思います。