短期滞在がオーバーステイとなっていたスリランカ人男性2人が、難民認定を申請しましたが不認定処分を受け入管施設に収容されていました。

仮放免出所後、仮放免の許可を更新しようとしましたが更新が不許可処分となり再度入管施設に収容されました。

この時点で日本にいられなくなって不思議ではない状態になっていたということになります。

この間に、2人は難民の不認定処分について※1異議申立を行いました。

この異議申立の期間中は退去強制(強制送還)はされないことになっています。

その後、この異議申立は棄却され、2人は棄却の告知がされた翌日に強制送還となりました。

難民の不認定処分についての異議申立は、行政機関である※2入国管理局に対して行ったものです。

これが棄却されたため、2人は司法判断を求めて裁判所に難民不認定について処分取消の訴えを起こしたいと考えましたが、検討する時間が無いまま翌日強制送還となったわけです。

2人はこれを不服として国を相手取って損害賠償を求める訴えを提起していましたが、第一審は2人の請求を棄却したため、東京高等裁判所へ控訴していました。

その控訴審で東京高等裁判所は、司法審査を受ける機会を実質的に奪い、憲法に違反するとして国に合計60万円の損害賠償を命じました。

「難民異議申立事務取扱要領」では異議申立に対する結果は速やかに知らせることになっていますが、この件では棄却決定は告知された40日以上前に出ていました。

裁判所は異議申立棄却の告知ついて、入管が送還を円滑に実施するために意図的に遅らせたと認定したわけです。

つまり国側が憲法第32条で保障する裁判を受ける権利を侵害し、違憲違法だとして原告側を勝訴させたのです。

この判決では外国人である原告らにも憲法第32条で規定する裁判を受ける権利が保障されることを前提としています。

人権なのだから当たり前ではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんが、外国人の場合、日本においては、すべての人権が日本人と同じように保障されるわけではないというのが日本国憲法の通説的な考え方なので、特定の人権が外国人にも保障されるかどうかは一応問題になるわけです。

ちなみに日本の裁判制度が三審制であることからすると、法律審である最高裁判所以外で憲法判断がなされることは少ないですが、できないわけではありません。

注意が必要なのは、この事件で難民の不認定処分に対する異議申立について入管の手続き上の取り扱いは違憲違法と判断されていますが、難民の不認定処分が不当であったかどうかは別問題であるということです。

正にその処分の当不当を裁判で争わせなかったことが違憲とされたわけですから、訴えることができていたとしても難民不認定処分自体は全く問題ないと判断された可能性はあるのです。

※1文中の「異議申立」は事件当時のもので、現在は行政不服審査法の改正により「審査請求」という手続きに変更されています。

※2「入国管理局」は現在入国管理庁になっていますが、もともと決定の権限は法務大臣にあり、法務大臣→入国管理庁の長→地方入国管理局の長へと順次権限が委任されているため、現在も各地方入国管理局の窓口が審査請求先となっています。