前回書いた無権代理の効果は無効が原則でした。

そのうえで、本人は追認して有効とすることもできるし、追認がなければ相手方は改正された無権代理人の責任を追求できるという制度でした。

代理権がないのに勝手に代理行為をした無権代理人の責任の他に、民法は一定の場合に本人に責任を認めています。

それが今回説明する表見代理の制度です。

つまり表見代理は無権代理である状態が前提になっています。

法律が定める一定の場合とは、ざっくり言うと代理権がないことについて本人に帰責性がある場合です。

表見代理は表見法理(権利外観理論)に基づくと言われています。

表見法理自体は条文で規定されているわけではなく、講学上の考え方です。

一般的には、1真実と異なる外観の存在、2外観に対する相手方の信頼、3外観の存在に対する本人の帰責性が要件とされています。

これらの要件を満たすことにより、一定の法律効果を本人に認めるというものです。

この考え方に基づく制度が様々な法律の中に規定されています。

名板貸しの責任(商法第14条)、表見支配人(商放題24条)、表見代表取締役(商法第354条)、同じ民法の第94条第2項虚偽表示の場合の第三者の保護もそうです。

具体的に定められている表見代理の規定には、代理権付与の表示による表見代理(民法第109条)、権限外の表見代理(民法第110条)、代理権消滅後の表見代理(民法第112条)があります。

従来からの改正点としては、それぞれの制度が複合的に適用される場合、例えば本人が代理権を付与していないのに付与したかのように表示した場合について、実際は代理権を有していない者が、付与すると表示された代理の範囲を超えて行為を行った場合、代理権付与の表示にもなるし、権限外の行為にもなるので、判例では民法109条と110条が重畳適用されると判断されていました。

このような判例の考え方を取り込んだ内容(民法第109条第2項、民法第112条第2項)に改正されました。

法的には、重畳適用されるケースがストレートに条文に規定されただけであまり変化はないことになります。

そこで、他の改正点との整合性を考えてみたいと思います。

解釈論としては固まっていないので、今の時点では以下の記述はテストでは無視してください。

以前、自己契約、双方代理や利益相反行為の効果について無権代理とみなされるという内容に改正されたことを書きました。

では、これらの場合に表見代理の適用があるのかという問題です。

無権代理が前提なので形式的には適用があるということになります。

しかし、考えてみれば、これらの場合、本人は契約の相手方が自分が選んだ代理人であることを知っているわけですから、代理権があると信じる正当な理由はほとんどの場合認められないことになりそうです。

つまり無権代理になってしまう相手方であるという認識がありながら、代理権があると信じる正当事由があるとは考えにくいのです。

この場合、これらの行為が改正法により無権代理になってしまうという法律を知らなかったことが正当事由にはならないことも改めて考えてみてください。

レアケースですが、適用があるとすれば、次のような場合が考えられます。

自己契約、双方代理、利益相反行為は無権代理となりますが、例外的に本人が事前に許諾していた場合は有効になります。

また、無権代理になった場合も事後的に追認されれば有効になります。

そのため、表見代理の規定の適用があるとすれば、事前の許諾や事後の追認について、本人がそのような意思表示を行ったかのように振る舞った場合、相手方はそれを信頼した正当の事由があると主張することにより、表見代理の規定が適用(あるいは類推適用)される余地はありそうだということになります。

まとめると、これらの場合に形式的には表見代理の規定の適用はあるが、実際の適用場面は少なそうだということになります。