時効の続きです。
時効が完成すると、取得時効にせよ消滅時効にせよ、自動的に時効の効果が認められるわけではありません。
裁判で認めてもらうには、裁判上で援用する必要があります。
これは時効による利益を得ることを潔しとしない人のために援用が必要だとされています。
裁判上で援用する必要があるのかどうかについて、判例は裁判外での援用を認めていますが、根拠は定かではありません。
時効を実体法上の効果と考えるにせよ、訴訟法上の効果と考えるにせよ、時効の完成により効果が確定的に生じると考えるのであれば、援用は訴訟上の攻撃防御方法ということになり、裁判上で行使する必要があるという考え方に馴染みやすいといえます。
時効の効果は実体法上不確定的に生じると考える立場は、元々時効の効果を不確定なものと考えるので、裁判外でも援用できるという考え方に馴染みやすいといえます。
判例が時効の効果をどのように考えているかについての評価は分かれていますが、裁判外の援用は認めています。
援用の趣旨どおり援用する意思さえあれば、裁判外でも良いというだけなのかもしれません。
援用権者については判例の集積があり、ほぼそれを取り込む形で民法第145条のカッコ書の中に規定されています。
保証人、物上保証人、第三取得者、その他権利の消滅について正当な利益を有する者です。
この民法第145条カッコ書の部分は、最後の「権利の消滅について」という表現からわかるように消滅時効の援用権者について定めたものです。
取得時効についてはカッコ書部分の適用があまりません。
判例で援用が否定されている例としては、物上保証人の一般債権者や後順位抵当権者が挙げられます。
物上保証人は被担保債権の消滅時効が援用できれば、担保目的物に付いての自分の権利が確保されるという利益がありますが、その物上保証人の権利確保のために物上保証人の債権者は被担保債権の消滅時効を援用することはできないということになります。
後順位抵当権者については、先順位担保権の被担保債権の消滅時効が援用できれば、抵当権の順位が上昇するという利益がありますが、判例はこれを反射的利益だとして援用を否定しています。
この辺りは条文には取り込まれていませんが、従来どおりの運用と考えて良いでしょう。