自らの母語の文字を使いこなすことは、考えることに欠かせない条件となります。

ワープロソフトやスマートフォンの普及により文字を手書きする機会は減っています。

手書きが多かった時代は、文字の簡略化や統一化が試みられました。

これまでも当用漢字から常用漢字へ、いわば漢字の規格変更が行われています。

子供の頃に漢字テストで、ハネやトメなどの違いを指摘され、☓(不正解)にされた経験のある人もいるのではないでしょうか。

2016年には文化庁が「常用漢字表の字体・字形に関する指針」というものを公表しています。

この指針は単なる字形の違いを間違いとする危機感から出されたようです。

つまり、漢字の字体と字形を区別しましょうということです。

字体とは文字の骨組みのことです。

異なる文字は異なる字体となりますし、同じ文字の旧字体も異なる字体になります。

漢字テストでいえば異なる字体を書けば正解とはいえません。

新字でも旧字でも正解となるかは出題によります。

これに対し字形は同じ文字の書かれた形を意味します。

これは同じ文字の形のバリエーションといえるので、少々異なっていても漢字テストでいえば正解とされます。

昔はこれが間違いとされていた時代もありました。

この違いを区別しましょうということです。

活字が中心になり、手書きの文字への不寛容さに危機感を覚え、お国からもお達しが出たというわけです。

ただ、このような危機感とは正反対の方向からの指摘も考えられます。

常用漢字などで漢字の簡略化が図られていますが、手書きすることが減ったため、反対に複雑な文字を復活させてもよいのではないかという指摘です。

確かに書く時に面倒だという理由もあったと思いますので、書くことが減っているなら違いを認識できれば異なる文字を使っても良さそうです。

勉強しなければならない文字の数は増えてしまいますが、それによって異なる思考や表現が可能になるならそれなりにメリットもあるはずです。

このような複雑な文字や難読漢字への関心は、文字の簡略化に対する危機意識のようにも感じられます。

テレビなどで漢字クイズなどが増えているのもこのような危機意識の現れかもしれません。