生活保護費を引き下げた処分が、生存権を侵害し憲法に違反するとして処分の取り消しを求めた訴訟の判決が熊本地方裁判所でありました。

判決は生活保護費引き下げの処分を取り消しました。

原告側の勝訴ということになります。

生活保護費については最低限度の生活を確保するため一定額の支給が要請されます。

他方で財源を伴うものであるため、額を決定する行政側に裁量権が認められます。

支給しないのは問題がありそうですが、行政に裁量権があるなら減額するのは自由な気もします。

しかし社会保障費の減額については一旦定められた支給額は正当な理由がなければ減額することは許されないという制度後退禁止原則という考え方があります。

裁判所はおそらくこのような考え方も参考に、今回の判決を出したのではないかと思います。

原告側が生存権侵害という憲法問題を持ち出していますので、前提を確認しておきます。

今回判決があったのは熊本地方裁判所です。

通常、憲法問題は法律審である上告審つまり最高裁判所で判断されます。

しかし、下級審である地方裁判所で憲法判断できないわけではありません。

そのため、原告側が地方裁判所で憲法問題を持ち出すことに問題はありません。

問題となるのはその内容です。

まず生存権は抽象的な権利であるとされているため、直接生存権を根拠に生活保護費などを請求できるわけではありません。

「健康で文化的な最低限度の生活」(憲法第25条)と規定されているため、勘違いされることがありますが、何か具体的に要求できるわけではないのです。

生活保護を申請できるのは、あくまで生活保護法という法律で生存権の内容が具体化されているからです。

そして2013年に行政が生活保護の基準額を引き下げたために、これが生存権を保障する憲法に違反するとして、処分の取り消しを求めて訴えたのです。

行政としては制度後退禁止原則があるとしても、デフレなどを理由に保護基準額を引き下げたため、正当な理由があったのだと主張します。

そこで基準額の引き下げについて正当な理由があるかどうか、裁量権の逸脱がないかが争点となるわけです。

これについて裁判所は、社会保障審議会の部会など外部専門家による分析や検討がなされておらず、客観性や合理性が認められないとして、厚生労働大臣の裁量権の逸脱を認定しました。

注意が必要なのは、判決では下げた額では生活できないと言っているわけではなく、決め方に客観性や合理性がないと言っていることです。

憲法判断を避けたと捉えることもできます。

逃げたということではなく、憲法判断というものはしなくて済むのであれば、安易にするものではないのです。