昨日、給付金詐欺について不正や違法であることを知らなくても故意犯が成立しうることを書きました。

せっかくですから今回は給付金詐欺について、次回は今回の共犯の続きについて書きたいと思います。

犯行内容の詳細がわかっていないので、教室設例的にケースを分けてご説明したいと思います。

まず大学生など若い人で関わっている人も多いようなので、共犯について書きます。

共犯はざっくりいうと複数人が犯罪にかかわる場合です。

首謀者がいますが、セミナーなどで給付金の申請者を勧誘していたようです。

まずセミナーなどで犯罪内容を打ち明けていた場合

謀議があったと認定される可能性が高いため、共謀共同正犯が成立する可能性があります。

詐欺罪が成立するなら、詐欺罪の共謀共同正犯ということになります。

共謀共同正犯ということになると謀議によって犯罪内容を知り、自らも犯罪を実行する意思があるということになるため、名義を貸したにとどまっても、相手を騙してお金を騙し取った人と同じ罪を負うことになります。

ただ、セミナーなどでは、「これは犯罪です」とぶっちゃけていない可能性もあるため、犯罪ではないかのように説明されていた場合は微妙です。

セミナー参加者の行為が適法行為か違法行為かで類型が分かれてくるように思います。

理論的に錯綜しているところなので、行為の適法性・違法性で必ず分けられるわけではないのですが、とりあえず考えるところを解説します。

以下では給付金詐欺については謀議が無い状態で詐欺罪が成立することを前提として解説します。

まずセミナー参加者が騙されて適法行為を行ったけれども犯罪に利用されていた場合

セミナー参加者を騙した方が、セミナー参加者を自分の犯罪行為に利用していますので、間接正犯が成立する可能性があります。

間接正犯というのは、刑法の条文にはないのですが、犯罪の背後者を正犯者として罰するために解釈上認められています。

間接正犯は他人を犯罪の道具として利用する場合や正犯者が被利用者を支配して犯罪を実行する場合などと説明されます。

セミナー参加者は、共犯になる可能性もありますが、極端な場合、道具として利用されていただけで、お咎めなしという可能性もあります。

ただし、今回の件では不正な給付金の申請に関わっているため、適法行為には該当せず、このケースは除外されることになります。

次にセミナー参加者が騙されて違法行為を行って犯罪に利用されていた場合

違法行為の程度や犯罪への関与の仕方によるのですが、まず誰が正犯かを特定します。

理屈のうえでは両方正犯で共同正犯とされる可能性もあります。

次に一方のみが正犯の場合

セミナー参加者が正犯とされる場合

セミナー主催者には教唆犯や幇助犯が成立する可能性があります。

教唆犯というのは人をそそのかして犯罪の実行を決意させる犯罪類型で、幇助犯というのは正犯者の犯罪を助ける犯罪類型です。

ただしこれは理論的な話で、命令支配関係もないのに人の言うことを聞いて犯罪を犯してしまうということはあまり多くないため、実際に教唆犯になるケースは少ないです。

反対に命令支配関係があり、言うことを聞かざるをえない場合などは、先程の間接正犯が成立する可能性が高いのです。

それに加え、主催者が正犯ではなく、単なる参加者が正犯ということも考えにくいため、今回の件で、このケースが成立する可能性は殆ど無いのではないかと思います。

セミナー主催者が正犯の場合

セミナー参加者は騙されていたとしても、行為自体が違法であると単なる道具とは言いにくい部分があります。

「これはもしかしたら犯罪では」と思っている人間は、その行為を思いとどまる可能性があるため、道具とは言いにくいからです。

言い方を換えると間接正犯者に支配されているとは評価しにくいので、間接正犯という類型ではなく共犯の方に傾きます。

被疑者が2人であるかのように書きましたが、複数人のうち正犯グループと共犯グループに分かれる可能性もあります。

そのうえで、今回の事件に関与した人は、その人の関与の仕方によって、上記のケースのうち、除外ないし成立する可能性が低い場合以外のケースに該当する可能性が高いです。

前回までの話とつなげると、騙されていたとしても、犯罪行為に加担してしまうと、少なくとも共犯が成立する可能性が高くなり、更に、不正や違法であることを知らなくても、故意犯になる可能性があるということになります。

怪しげな話には乗っからないということが重要になります。

次回は共犯の続きについて書きます。