前回は、債権者代位権について書きました。
債権者代位権についての改正は、細かなものを含めると前回書いたもの以外にもありますが、債権者代位権については前回の内容に留め、どんどん先に進みます。
今日は、債権者取消権について書きます。
債権者取消権は債権者が債務者の行った詐害行為を取り消すものです。
詐害行為取消権と呼ばれることもあります。
債権者代位権と異なり、裁判上で行使する必要があります。
債権者取消権についても細かな改正がいくつもあります。
内容を絞って書きたいと思います。
通常の説明の順序が異なりますが、取消訴訟の効果から書きたいと思います。
まず、詐害行為取消権を行使した訴訟で勝った場合(請求が認容された場合)、判決の効果は、以前は相対的取り消しであるとされていました。
つまり、訴訟当事者間でのみ、取消の効果が生じるとされていたのです。
これが改正により「債務者及びその全ての債権者に対しても」判決の効果が及ぶ事になりました。(民法第425条)
債務者の詐害行為を取り消すので債務者はいいとして、債務者の財産を取り合うすべての債権者にも効果が及ぶことにして対象となっている詐害行為については取消権の行使が1回で済むようにしています。
「対しても」とあるように、これら以外の人にも及びます。
まず、取消訴訟の相手方が受益者や転得者である場合、受益者や転得者は訴訟当事者なので当然に判決の効果が及びます。
ただし、受益者を相手方とした場合は、転得者がいても転得者には及ばず、転得者を相手方とした場合は、受益者には及びません。
詐害行為の法律関係に巻き込まれてはいますが、債権者が誰を相手に訴訟を提起するかによって判決の効果が及ばない人も出てくる可能性があるのです。
つまり、判決の効果が広く及ぶようには改正されたのですが、第三者効を完全に認めたわけではないという微妙な状態なのです。
次に、債権者取消権の要件ですが、詐害行為について債務者と詐害行為の相手方双方が詐害行為について悪意であることが必要とされていました。
そして、更に受益者の他に転得者が登場した場合などについて誰と誰の間に悪意が必要とされるのかということについて、かつては相対的構成が取られていました。
相対的構成は当事者ごとに個別に判断するという考え方です。
つまり受益者が善意でも、転得者が悪意であれば債権者取消権の行使ができるとされていたのです。
これが改正により、受益者が悪意であれば、転得者は善意悪意にかかわらず債権者取消権が行使できることになり、絶対的構成を取ることが明文で定められました。(民法第424条の5)
絶対的構成は、この場合で言えば、受益者が悪意者であれば、それ以降は、転得者が善意であっても債権者取消権の行使ができるということに確定するという考え方です。
ここで注目してほしいのが、先に書いた判決の効果です。
取り消しの相対効と善意悪意についての相対的構成は決して馴染みにくいものではありません。
しかし、両者を組み合わせると、問題となっている1つの法律関係に基づいていながら、当事者ごとに結論が異なる可能性が出てくる不安定な制度になってしまいます。
これに対し、判決の効果を当事者以外にも広げ、善意悪意の要件について絶対的構成を取ると、早期に法的安定性を確保できる制度になります。
その代わり、当事者ごとに具体的妥当性は図りにくくなるという恨みはあります。
このような視点で、今回の善意悪意の要件と判決の効果についての改正がなされたのではないかと思います。
更に、受益者や転得者を訴訟当事者とした場合、判決の効果が及ぶ債務者の預かり知らないところで訴訟が進んでしまう可能性があるので、訴訟告知という手段で手続保障を図っています。(民法第424条の7第2項)