昨日、日本の長崎県のお寺から仏像が盗まれ、韓国(大韓民国)へ持ち去られていた事件についての韓国での裁判について書きました。

韓国人の窃盗グループが日本のお寺から仏像を盗み出し、韓国へ持ち帰っていたのです。

日本のお寺が返還を請求したという裁判ではなく、窃盗グループ逮捕後に韓国政府が保管していた仏像について、韓国のお寺が14世紀に倭寇によって略奪されたものだと主張して、韓国政府に返還を請求した裁判について、韓国の裁判所で控訴審判決があったのです。

被告はあくまで韓国政府ですので、このように国や時代をまたいで法的紛争が生じる場合について考えてみたいと思います。

まず、国をまたぐ場合、裁判管轄がどの国にあるかということが問題になります。

日本の法律では、民事訴訟では被告の住所が日本にある場合、日本の裁判所に管轄があるということになっています。

そのうえで、裁判権が及ぶかどうかということが問題になります。

外交使節の場合、法の適用があっても裁判権が及ばないというケースもあります。

更に、裁判管轄があるとして、どの国の法律を基準にするかという準拠法の問題が生じます。

これについては、日本の場合、法の適用に関する通則法という法律があり、法的紛争の種類によっては準拠法が定められている場合もあります。

今回の場合、韓国政府が保管している仏像について、韓国のお寺が起こした返還請求訴訟の裁判ですので、韓国の裁判所に管轄があり、韓国の法律に基づき裁判されたわけです。

次に、時代をまたぐ場合を考えます。

まず、時代により法律が異なることがありますが、原則としてある法律の制定前の紛争について、紛争が生じた後に成立した法律が適用されることはありません。

例外的に遡及適用を認めた施行規則などが定められている場合に、遡及適用されることがあります。

韓国法には詳しくないので、韓国での裁判とは別の話として、日本の法制度で、日本のお寺側としては即時取得や時効取得、占有権侵害などの主張が考えられるということを書きました。

韓国のお寺は、14世紀に倭寇によって略奪されたものだと主張していたわけですが、日本に渡ってきたのがいつか詳細については詳しく知らないので、ケースを分けて考えます。

14世紀にすぐに日本に持ってこられて日本の観音寺が取得していた場合、即時取得という制度は当時なかったので、日本の法律でも主張することが難しいという結論になります。

日本に持って来られて、現行の民法施行後に日本の観音寺が取得したのなら即時取得制度の適用の可能性があります。

これに対し、時効取得や占有権侵害の主張は、現在から見て時効取得に必要な期間が経過しているか、あるいは、それまであった占有が侵害されているかが問題になりますので、当時このような法律がなかったとしても現行法に基づき主張可能ということになります。

もちろん、所有権侵害の主張をストレートにすることも考えられます。

これらの法制度はあくまで日本の法律によるものなので、日本で裁判を行った場合の主張です。

民事訴訟としては被告の住所が日本にある必要があるので、今回の場合、窃盗グループに対しても韓国政府に対しても日本で民事訴訟を提起することは難しいことになります。

もし日本のお寺が韓国で民事訴訟を起こす場合には、韓国の法律がどのようになっているかを調べる必要があるということになります。