外国人が入国する権利は日本の憲法では当然のものとしては認められていません。

入国させるかどうかはあくまで日本側に決定権があるのです。

しかし日本人が出国する自由は日本の憲法上認められています。

根拠は居住移転の自由とする考え方や旅行の自由とする考え方、職業選択の自由としても求められるという考え方などどこに根拠を求めるかは様々な考えがありますが、海外渡航(出国)する自由が認められているという点では共通しています。

シリア取材を計画していたカメラマンがパスポートの渡航先を制限されたりパスポートを返納させられたことを不当だとして訴えていた裁判の判決が2月19日に東京地方裁判所で出ました。

結論としては外務省の主張をほぼ認める形でカメラマンである原告の訴えを棄却しています。

この裁判では外務省の処分が海外渡航の自由だけでなく報道の自由や取材の自由を不当に制限しているのではないかという点も争われていました。

他にパスポートの返納について政府が外務省に働きかけていたのではないかということも問題視されました。

裁判所は専ら政権の保身を目的としてものであったとは言えないとして外務省の判断をほぼ認める判決となっています。

この裁判では海外渡航の自由や報道の自由という人権ないし法的に尊重されるべき利益が不当に制限されたのではないかというのが争いの中心となります。

外務省側は旅券法19条を根拠に、「個人の生命や身体、財産の保護」のためであれば、個人にパスポート返納命令を出せるとして合法的な措置だったという主張です。

これに対しカメラマン側はそもそも生命や身体のためでなく政権の保身のために渡航を制限したもので不当な処分ではないかという主張です。

更に旅券法第19条があるとしてもパスポートの返納は行き過ぎだというロジックです。

要はカメラマンの人権ないし法的利益を制限した外務省側の処分が公共の福祉のための合理的制限であったかどうかという判断になります。

地裁での裁判ですので法律審ではありませんが処分の合法性や根拠となっている法令の合憲性も判断されうる事案です。

原告の請求の棄却と被告の処分が合法という判断はイコールではありませんが、外務省側の危険な地域で取材する可能性があったという主張を認めているということは合理的な制限であったという判断をしているのとほぼ同じことになります。

過去にジャーナリストで身柄を拘束され命を落とした人もいますが、取材地が危険な場所かどうかは流動的であり、実際にこのカメラマンが行こうとしていた場所はプレスツアーなども行われていた地域であったようです。

紛争地が危険な状態であったかどうかを把握することは非常に困難ですが日本国憲法下で初となる報道人へのパスポート返納命令が合法という判断を皆さんはどう思われますか?