東京都の小金井市で、保育園の廃園を巡って揉めています。

市立の保育園2園を廃園する条例が議案として提出されたのですが、市議会で可決に至りませんでした。

厚生文教委員会に付託されていましたが、継続審議となってしまいました。

10月には来年の入園案内が始まることを考えると、9月中の議決が必要だとして、市長は廃園の専決処分を行ったのです。

専決とは権限の代行の仕方の一種で、代理や委任と異なり、行政内部で実際に権限を代行する機関は外部に公表されないまま権限が行使されたものが、対外的には決裁権者が権限を行使したことになるというものです。

つまり対外的には決済権者が決めたという形式で、行政の執行機関内部で手続きを進めてしまうのです。

議会が条例で決めるかどうか審議しているものを、執行機関の側で決めてしまったということになります。

国政で例えると法律を作るか国会で議論していたら、総理大臣が決めてしまったような感じです。

急遽、全員協議会が開かれ、市長は追及を受けることになりました。

市長は専決の理由として、保育園の運営には財源が必要であることや待機児童や人口減少により入園予定者の数が減ることを挙げています。

更に決定の時期を考えると、「緊急性がある」ということも繰り返し述べています。

この問題をどのように考えるべきでしょうか。

市長の判断も荒唐無稽ではありません。

専決できる事項は議会で議決できる事項に及んでいるのです。

この点で、先程の国政レベルの例えとパラレルに考えることはできません。

これに対し利用者側としては、専決の取消訴訟という手段が考えられます。

ただ、処分が適法か違法かの判断になるため、処分性が認められるとしても、議会と執行機関のどちらの権限かははっきりしないため、結論はどちらに転ぶか微妙になります。

ここで、一旦脇道にそれます。

仮に廃園の条例が可決されたらどうなるでしょうか。

条例の制定行為については、狭義の処分に当たらなくても、「その他公権力の行使」(行政不服審査法第1条第2項)にあたるとして審査請求はできる可能性はあります。

これに対し、条例の制定は行政訴訟では争いにくい行政行為とされています。

理由は制定時点では抽象的な定めであり、条例の制定には執行行為という処分性が認められにくいからです。

言い方を換えると条例制定自体には処分性が認められなくても、その条例に基づいて具体的な処分があったら、それについて争えばよいという発想です。

しかし、今回は仮に廃園条例が可決され、その後廃園されてしまってから(処分があってから)争うというのでは遅過ぎるという問題があります。

このような場合のために、本案で判決が出るまで、仮の執行停止という手段を併用する方法があります。

条例制定についての判例として過去に横浜市の保育所を一部廃止する条例について、本来なら処分性がないと解されるところ、保育所の廃止条例については、条例の制定が即特定の保育所の廃止という法効果を伴うので、条例制定行為自体に処分性を認めたものがあります。

しかし、今回は条例の内容を争うのではなく、条例が制定されずに市長が専決してしまったことを問題にしたいわけです。

事案が異なるのに、関係のない判例を持ち出して法律論を振り回そうというのではありません。

裁判所は本来認められないはずの条例制定の処分性を保育所の廃止については認めているのです。

それだけ今回の問題は法効果性が強い事項だということになります。

ここで話をもとに戻します。

実際には条例が可決されていないにしても、そのような法効果性の強い事項を議会ではなく、執行機関が単独で決めて良いかというのが、この問題を考えるヒントになりそうです。

ただ、これも適法か違法かを決める決定打にはならなそうです。

そこで、児童福祉法を根拠に、特定の保育所で保育を受けさせることは親の権利としての性格が強いという主張をすることが考えられます。

これにより、廃園の専決処分は、権利を制限するものとして不利益処分だと主張することが可能になりそうです。

そして、小金井市には行政手続条例がありますので、不利益処分に際し、弁明や聴聞の手続きが必要になってくるので、これらの手続きが不十分だという主張が可能になるようにも思えます。

しかし、この条例には「緊急に処分をする必要がある場合などを除いて」と言う文言があり、市長が繰り返し強調していた「緊急性がある」というのがネックになってきます。

ここまで検討してみると、市長側の主張も、簡単には崩しにくい部分があるということがおわかりいただけると思います。

結局、利用者側が廃園を防ぐ手段としては、取消訴訟で権利性や法効果性を強調して、処分の違法の判断を引き出すか、違法性だけでなく、当・不当の問題を争える審査請求を行うというのが筋かもしれません。

どちらを選択するかは法的には自由です。

保育を受ける私的権利性を強調するなら、争い方として民事訴訟も無いわけではないと思います。

しかし公法関係を争う取消訴訟では、第三者に判決の効力が及びますが、私法関係を争う民事訴訟では、判決の効力は訴訟の当事者に近い者に限定されますので、通常この手の訴訟で私的利益を中心に争う手段は選択されません。

訴訟に勝った人との関係では保育園は継続するけれども、負けた人との関係では廃園するというのが、おかしな結論であるということはご理解いただけると思います。