前回、シンプルな基本の賃貸借契約の規定について書きました。

今回は、賃貸借契約について、当事者の変更や目的物の移転といった変動が生じている場合の規定について書きます。

前回、対抗要件を備えた賃借権は、物権を取得した者その他の第三者に対抗することができる(民法第605条)ことを書きました。

物権の取得者の代表が目的物の譲受人です。

賃貸借の場合、目的物の物権が移転すると、契約上も地位も移転します。

ただし、賃貸借については契約上の地位の移転に関する規定(民法第539条の2)が適用されるのではなく、対抗要件を具備した賃貸借であれば、賃借人の同意なしに、賃貸人の地位が移転されることが明記されました。(民法第605条の2第1項)

賃貸人の地位の移転は、当事者つまり譲渡人と譲受人の合意によっても生じます。(民法第605条の3)

民法第605条の2第1項と民法605条の3の関係についてですが、民法第605条の2第1項は、賃借権について対抗力を備えていれば、合意は必要ないのに対して、民法605条の3は合意があれば、対抗力を備えていなくても賃貸人の地位が認められるため、両者は別々の場合を規定していることになります。

賃貸借目的物の物権を有する者と賃借人は、それぞれ物権と債権を有している者の関係にあります。

そのため、物権を有する者が、賃借人に自分の権利を対抗するのに、対抗要件を具備している必要があるかという問題が生じ、これについて疑義がありましたが、登記という対抗要件が必要であることが明記されました。(民法605条の2第3項)

次に、賃借人が、賃貸借の目的物を更に賃貸する場合(転貸借)は、もともと賃貸人の承諾が必要でした。(民法第612条)

その場合、転借人は賃貸人に直接義務を負いました。

しかし、賃貸人の承諾を得た転貸借がなされた場合であって、賃借料と転借料が異なるケースについては、転借人が負う義務の内容や範囲については規定がありませんでした。

そこで、原賃貸借の賃借人の義務を限度として、転借人が賃貸人に直接義務を負うことが明記されました。(民法第613条第1項)

最後に敷金について書きます。

前回も敷金について書いていますが、賃貸人の地位が移転している場合について書きます。

上に書いたように、民法第605条の3が規定されたことによって、賃貸人の地位が移転します。

このとき、賃借人が対抗要件を備えていなくても、新賃貸人は賃借人の賃借権を否定することはできないと解されます。

賃貸人の地位が移転するということは、賃貸借関係があることが前提となっていて、賃借権の負担付きで権利が移転されていると考えられるからです。

この規定によって、譲渡人と譲受人の合意によって賃貸人の地位が移転している場合、賃借人は対抗要件を備えていなくても、要件を満たせば、新賃貸人に敷金の返還を請求することができることになります。